「神話」と言われて真っ先に何を思い浮かべますか?
「ギリシャ神話」ですよね。
「神の姿」と言われてどんなデザインを真っ先に思い浮かべますか?
白髪ヒゲもじゃ白い衣装、それは「ゼウス」ですね。
ギリシャ神話について、みなさんはどれぐらいの距離感で接しておいででしょうか。
神、英雄、神器、怪物。
その名前やエピソードは現代でも驚くほど身近にたくさん引用されています。
となれば、そのギリシャ神話のあらましを知るほどに日常生活が豊かになること疑念の余地がありませんよね。
今回はそんな神話の中の神話、ギリシャ神話の流れを簡潔にまとめておきたいと思います。
これだけ掴んでいれば十分詳しいと豪語して構いません。
特に創作を趣味としている方は是非お付き合いくださいませ。
そもそもギリシャ神話とはなんぞや?
ギリシャ神話とはヨーロッパのギリシャ、及びその周辺地域にて語られる、神と怪物と英雄による物語群のことです。
神話の成立
この地域にギリシャ人の祖先が住み着いたのは紀元前2000年ごろ。
クレタ島にミノス文明が興りました。
当時この地には既に青銅を用いる文明が存在していましたが、これらを制圧することで新たな文化圏が構築されたのです。
しかしその後、紀元前1650年ごろにはギリシャ本土でミュケナイ文明が興り、クレタ島も彼らに征服されてしまいます。
やがて時代は進み紀元前8世紀ごろ、それまで口伝として伝わってきた神話群が文章としてまとまります。
ギリシャ神話はこの時に生まれたわけですが、それ以前の文明が持っていた神話や説話なども巧みに取り入れることで、現在に至る神話が形成されたようです。
終盤の大イベントである「トロイア戦争」が実際にあったと思われるのが紀元前1250年ごろ。
その直後にミュケナイ文明も崩壊したようなので、ギリシャ神話の元ネタとなった英雄や戦争の多くはこの時代以前の逸話からまとめられたものなのでしょう。
実に1000年以上の伝説をまとめたというわけですね。ギリシャ神話って。
我々が知るギリシャ神話のあらましは、主にこの時代の叙述作家ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』『仕事と日々』という4冊でほぼほぼ成立したと言えます。
ローマ神話
紀元前6世紀ごろ、後にヨーロッパ周辺の広大な地域を統治することになる、古代ローマにも独自の神話がありました。
しかしすぐ隣に完成度の高いギリシャ神話があることで大いに影響を受けることになります。
自分達の神々をギリシャ神話の神々と同一視するようになるのです。
支配者が代わる度に起きていると思ってもいいぐらいです。
以下に有名どころを列挙してみます。
これらは後にギリシャ神話にて「オリュンポス12神」と謳われる者たちです。
ギリシャ神話 / ローマ神話
天界の王ゼウス / ユピテル(英名ジュピター)
天界の女王ヘラ / ユノ(英名ジュノー)
戦の女神アテナ / ミネルヴァ
太陽神アポロン / アポロン(英名アポロ)
軍神アレス / マルス(英名マーズ)
美の女神アフロディーテ / ウェヌス(英名ヴィーナス)
神々の伝令ヘルメス / メルクリウス(英名マーキュリー)
月の女神アルテミス / ディアナ(英名ダイアナ)
海神ポセイドン / ネプトゥヌス(英名ネプチューン)
大地の女神デメテル / クレス
鍛冶の神ヘパイストス / ウォルカヌス(英名ヴァルカン)
炉の女神ヘスティア / ウェスタ
酒の神ディオニュソス / バックス(英名バッカス)
冥界の王ハデス / プルート
以上がオリュンポス12神に名を連ねる14柱の神々です。
12人より多いのは、説により2~3人入れ替わるからです。
さて、ギリシャ神話は大きく分けて3部構成になっています。
・12神が揃う日常回と最終決戦の第二部
・主役が神々から英雄に移る第三部
それではまず第一部「ティタノマキア」編から見ていきましょう。
第一部 創生神話ティタノマキア編
「ティタノマキア」とは「ティタン神族との戦い」という意味です。
ゼウスがこの世界の覇権を握るまでを描いた戦いの章です。
はじまり
世界はまず原初の混沌より大地母神ガイアが誕生したところから始まります。
ガイアは独りで天空神ウラノスを生み、2人で多くのティタン神族を生みます。
そうして一大勢力を築くとウラノスがそのトップの座に就きます。
しかしウラノスは暴君と化します。
そこでガイアと息子のひとり、農耕神クロノスが結託し、ウラノスの男性器を切り飛ばし! 追放してしまいます。
こうしてクロノスがウラノスの代わりに王座に就きました。
しかしクロノスはすぐに不安に陥ります。
自分もやがて生まれくる子供たちによって、ウラノスと同じような目に会うのではなかろうか、と。
そこで妻である女神レアから生まれてくる赤子を片っ端から丸呑みにしていきました。
ゼウス誕生
生まれてくる我が子を片っ端から丸呑みにされる母親の気持ちをわかる人がこの世にいるでしょうか?
レアはガイアに泣きつき助言を賜ります。
そして6番目に生まれた子供を丸呑みにされる直前、産着でくるんだ大きな石とすり替えました。
そうとは知らずその石を子供と思い丸呑みにするクロノスを尻目に、助かったその赤子、ゼウスはクレタ島でニンフ(妖精)たちに匿われながら立派に成長するのです。
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対決
成人したゼウスはいよいよクロノスと対決します。
まずは吐き気を催す薬を飲ませ、丸呑みにされた兄弟姉妹を吐き出させます。
みんな腹の中でもしっかりと成長していました。
特にゼウスの頼もしい仲間となったのが、ポセイドンとハデスでした。
しかし戦いは膠着状態が10年も続くことに。
そこでゼウスはクロノスにより冥府の牢獄タルタロスに幽閉されていたティタン神族、サイクロプス3兄弟と、ヘカトンケイル3兄弟を解放することで仲間に引き入れました。
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ヘカトンケイルの凄まじい岩石投げと、鍛冶の腕を振るい神器を作り出すサイクロプスの活躍で、戦局は大きく傾きます。
こうしてティタン神族は敗れ、ゼウスが新たな王座に就きました。
その後、世界を三分割し、天空はゼウス、海はポセイドン、地下世界はハデスが治める事となります。
第二部 日常回からの最終決戦

オリュンポスの神々
ゼウスたちオリュンポス神族は、着々とその体制を強めていきます。
軍神アレスや戦女神アテナ。
太陽神アポロンと月の女神アルテミスなど。
次々と有力な神々が生まれ、オリュンポス12神として君臨します。
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他にもティタノマキアで活躍したヘカトンケイルやサイクロプス、オリュンポスへと寝返り忠誠を誓ったプロメテウスなど、個性豊かな面々によるオムニバス的なエピソードが数多く語られるのもこの第二部の特徴です。
しかしこうした日常回に不満を露にした者がいました。
大地母神ガイアです。
原初の女神であるガイアはこれまで幾度もゼウスに手を貸してくれました。
しかしガイアは同時にゼウスの敵であったティタン神族の母でもあります。
そのティタン神族に対し、ゼウスの与えた懲罰は苛烈を極めました。
何度も減刑を乞うたガイアの声には耳を貸さず、ゼウスは女神や妖精、人間の姫君との色恋沙汰にのめり込みます。
そしてついにガイアはキレました。
実はガイアの胎内には新たな命が宿っていました。
かつてクロノスにより切り取られた、ウラノスの男性器から滴り落ちた血液は大地に染み渡りました。
ガイアは大地母神です。
大地とはすなわちガイアそのもの。
こうして新たに誕生した、両足が蛇そのものの巨人族「ギガンテス」(単数形はギガント)がオリュンポスへと攻め入りました。
最終決戦ギガントマキア
オリュンポスにはアレスやアテナなど、強力な神々が待ち受けていました。
しかしこれが何故だか劣勢を強いられます。
なんとギガンテスには特殊スキル「神の攻撃無効」というチートな防御耐性が備わっていたのです。
ゼウスたち神では決してギガンテスを倒すことは出来ないのです。
だがそれでも全能の神ゼウスです。
彼は既に手を打っていました。
ただ闇雲に色恋沙汰に耽っていたのではありません。
各地の美女という美女に子種を撒いていたのはこの時のためだったのです。
アルゴスの王女アルクメネに生ませた子供は既に英雄へと成長していました。
ヘラクレスです。
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半神半人であるヘラクレスの攻撃はギガンテスにも有効!
ゼウスに乞われ参戦したヘラクレスは、持ち前の弓術で次々とギガンテスを屠ります。
戦いの決着はついたかと思われました。
ラスボス「テュポーン」
しかしガイアも最後の奥の手を繰り出します。
冥府の牢獄タルタロスそのものと繋がり、最強最大の魔獣テュポーンを生み出したのです。
テュポーンは天を衝くほどの巨体で、両腕を広げれば世界の端から端まで届きます。
上半身はヒト、下半身は蛇。
肩からも無数の蛇を生やし、瞳からは炎を発します。
「タイフーン(台風)」の語源でもある怪物テュポーンは、エキドナと共に数多の怪物を生み落としたギリシャ神話最大の強敵です。
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さすがにオリュンポス勢も臆し、一時撤退という名の逃げに徹します。
その際、各々動物に姿を変えギリシャ周辺各地へと落ち延びました。
こうして何ターンかの激しい攻防が繰り広げられましたが、最後はゼウスたちの猛反撃により、見事テュポーンは討ち取られることに。
さすがに諦めのついたガイアもこれ以降大人しくなり、物語の主人公は神々から英雄へと移り変わっていきます。
第三部 英雄たち
ギリシャ神話には神々の物語だけでなく、英雄たちによる冒険譚も数多くあります。
英雄たちは半分神の血が混ざっていたり、後に本当に神に昇格したりと様々です。
以下に名のある英雄を幾人か列挙してみます。
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「アキレス腱」の語源になった人。
頑強な肉体を誇ったが、唯一足の腱に矢を受け命を失った。
トロイア戦争で活躍した。
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□【トロイア戦争終戦】誰も勝者はいない【サーガレビュー第4回】
同じくトロイア戦争の英雄。
しかし彼の物語はその戦争が終わり、祖国へ帰るのに10年を費やした航海がメイン。
「トロイの木馬」の発案者としても知られる。
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トロイア戦争以前、テッサリア地方の正統な王位継承者であったイアソンは、国を簒奪した叔父から王位を譲り受ける条件として、はるか黒海の果て、コルキス国から「金羊毛皮」を持ち帰る約束を取り付ける。
ギリシャ中の英雄をかき集め、巨大な船「アルゴ―号」に乗り込み冒険へと出かけた。
英雄の顔ぶれは多彩で、あのヘラクレスやテセウス、アキレウスの父であるペレウスなどが参加した。
「アルゴナウタイ(英語読みアルゴノーツ)」はギリシャ英雄オールスター共演なのである。
まとめ
いかがだったでしょうか。
5分で理解できましたでしょうか。
ギリシャ神話の内容には、おそらくかつてこの地にいた先の文明との戦いがいくらか反映されていると推察されます。
例えば男性器を斬り飛ばされ追放されたウラノスは、先の文明の王だったのかもしれません。
今回詳細には取り上げてませんが、オリュンポス12神のひとり、美の女神アフロディーテはゼウスの子ではありません。
ウラノスの切り取られた男性器から生まれたとされています。
「美」なのでセクシャルなシンボルを取り入れたとも取れますが、もしかしたらアフロディーテは先の王の血族で、その美しさによって生き延びた。
そんな妄想も膨らませてみるとまた面白いんじゃあないでしょうか。
キリスト教の台頭により一時、数百年単位で忘れられていたギリシャ神話ですが、今でもこうしてしっかりと語り継がれている物語でもあります。
創作を志す者なら数百年単位で残る物語の創造を常に目標にしていたいものですよね。
それではまた!