日本神話で最もかわいいお姫様キャラ。
それが今回ご紹介するクシナダヒメノミコトでございます。
彼女は日本の神話の中でも群を抜いてヒロインしているザ・お姫様。
いったいどんな立場なのか?
正体は何だったのか?
そして彼女が関係する日本最初の○○について。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
今回も皆さまの創作ネタとして、創作物への没入感を深める糧として、お楽しみいただければ幸いです。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもクシナダヒメとはなんぞや?
クシナダヒメとは日本神話において、ヤマタノオロチの生贄になるところをスサノオノミコトにより救われた姫のことです。
ヤマタノオロチは八つの首を持つ巨大な大蛇で、スサノオは暴れすぎて天界から放逐された荒神です。
日本の神話は主に『古事記』と『日本書紀』の二つから成り立っていますが、このクシナダヒメに関するオロチ退治のエピソードはどちらにも記載されています。
というか日本神話においては最も有名エピソードだと思われます。
何よりドラゴンを退治して姫を救う英雄の話、といういわゆる「ペルセウス・アンドロメダ型神話」として、広く親しまれる普遍的な英雄譚だからなのです。
ではざっくりとですが、物語の内容を。
場所は出雲の国。
高天原(たかまがはら)を追放された荒神スサノオは、肥(ひ)の河で嘆き悲しむ老夫婦、アシナヅチとテナヅチに会いました。
老夫婦には八人の娘がいましたが、ヤマタノオロチが毎年一人ずつ生贄に要求。
ついに今年最後の一人、クシナダヒメを残すのみとなってしまったのです。
そこでスサノオは、クシナダヒメを嫁に貰うことを条件に、オロチ退治を請け負います。
老夫婦は突然の申し出に懐疑的でしたが、スサノオが「自分はアマテラスの弟である」、と素性を明かすと心強くなり喜びました。
まずスサノオは神通力でヒメを櫛に変え、自らの髪に挿します。
そして老夫婦に八度醸造した強い酒、「八塩折酒(やしおりのさけ)」を用意させ、さらに八つの谷に八つの桟敷と門を作らせそこに酒を置きます。
酒の匂いにつられてやって来たオロチは見事にその酒で酔いつぶれ、あとはスサノオが自らの剣、「十拳剣(トツカノツルギ)」で全ての首と尾を斬り飛ばしました。
しかして尾のひとつを斬った際、なんとスサノオの剣が欠けてしまいます。
その尾を切り開くと中から「天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)」が出てきたので、その剣をアマテラスに献上しました。
スサノオは約束通り、クシナダヒメと結婚し、出雲の国で多くの神々を生んだと言います。
以上が物語のあらましです。
なぜ櫛に変えたのか
スサノオはオロチと戦う際、クシナダを守るために神通力で櫛に変え、自らの髪に挿しました。
これはクシナダの名を『古事記』では櫛名田比売(クシナダヒメ)と書くことにも由来しています。
しかし何とも腑に落ちません。
ヒメを守るなら老夫婦共々、安全な場所に避難させる方がよくないですか?
これは「守るため」ではない、のではないでしょうか?
なにやら古来、女は「生命力」の象徴であったそうです。
そして「櫛」というのは呪法的な意味合いもあるらしく、例えばかのイザナギは、黄泉平坂にて追いすがる屍鬼の足元に櫛の歯をばら蒔き撃退しています。
こういった前例からもスサノオは、櫛に変えたクシナダを強力なアイテムとして装備したのではないでしょうか?
「クシナダの櫛」(生命力+20) |
ゲームぽく言えばこんな感じに、です。
それに「櫛を挿す」というのはこの二人の結ばれる様を意味しているとも取れます。
実際エンディングで二人は結ばれたので、二人一緒に縁結びの神様として祀られていたりもします。
いろいろな考察が捗ると思いませんか。
さらにクシナダヒメは水神(ここでいうオロチ)に仕える巫女であった、とする考えもあります。
『日本書紀』ではクシナダヒメは「奇稲田姫」と書きます。
もしかしたらこちらの当て字の方が一般的かもしれません。
字のごとく、クシナダヒメは稲田のヒメであり、水神オロチによる水害を鎮める巫女であったというのです。
鎮める方法は古来より人柱と決められています。
巫女はその身を仕える神に捧げる存在です。
クシナダの前に七人の姉がすでに生け贄として捧げられていました。
ちなみにこの七人、残念ながら物語中にその片鱗すら出てきません。
せめて名前だけでも設定されていたら、今日までの創作物に大いに登場していたことでしょうね。
とにかくスサノオの出現により、オロチは退治されました。
それは治水工事が完了したのか、新たな支配者(大和朝廷)がのさばったためか。
しかしこれ以後、巫女が生け贄として捧げられる事はなくなったのです。
日本最初の和歌
このオロチ伝説のエンディングにて、スサノオとクシナダは結婚します。
そして出雲の須賀という地に新居を建てます。
その際にスサノオの詠んだ歌が日本で最初の和歌であるそうです。
「八雲立つ 出雲八重垣 妻篭みに 八重垣作る その八重垣を」
ざっくりと意訳すると、
「雲が沸き立つ出雲の地に、妻を住まわせる家を建てたぞ。その家をよぉ」
という感じ。
新婚で家まで建てたと。
夫としての本懐をひとつ、成し遂げてやったぞ! という感慨を感じますね。
もう少し情緒を込めて意味を解そうとすると、
「雲が幾重にも沸き立ち囲むこの出雲の地のように、妻のためその雲の如く、幾重にも垣根を持つ宮を建てたんだ。その雲が如く」
壮大に沸き立つ雲に覆われたこの出雲の地のように、壁や垣を立派に拵えた宮を建てたのだと。感嘆だ、と。
そんな感じですか?
何冊か意味を読み比べましたが、要約するとこんな感じかな、と思いました。
歌詞の解釈は難しいですよね。
そもそもこの歌は文字にして書き起こすことのない時代に生まれたもので、何より音のリズムが重視されているそうです。
実際、声に出して読んでみると三度繰り返す「八重垣」の韻が気持ちよかったりします。
ちなみに現代人が音読する速度ではなく、ゆっくりと、伸ばしつつ謳う感じがデフォでしょうか。
この歌はそもそもが結婚式で歌う定番ソングだったようで、そのおかげで今日までその存在が伝えられてきたとのこと。
安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』みたいなものですか。
例えが古くて申し訳ありません。
今は何が定番なんでしょう?
結婚式に縁がなくてわかりません。
まとめ
- クシナダヒメはヤマタノオロチの生贄にされるところだった
- スサノオノミコトに救われ結婚した
- 多くの神々を生み、出雲の祖神となった
- 元は水神に仕える巫女で、稲田の女神となった
いかがだったでしょうか。
ヤマタノオロチとスサノオの物語は知っていても、ヒロインの素性までは知らないという方もいらっしゃったのではないでしょうか。
『ブルーシード』
クシナダヒメをメインに据えた創作物というと『サザンアイズ』で有名な高田祐三先生の『碧奇魂ブルーシード』ですね。
ごく普通の中学生のはずであった藤宮紅葉は、奇稲田一族の末裔であり、自らが人柱になることによって「荒神」(あらがみ)と呼ばれる謎の怪物を封印する力を持っていた。紅葉を襲う荒神の出現と彼女を守る草薙護の存在。人柱という運命に迷いながらも紅葉は「国土管理室」のメンバーとなって荒神と闘う決意をする。
引用:Wikipedia
竹書房「コミックガンマ」で連載された原作よりも、TVアニメの方が有名かもしれません。
登場人物もオロチ伝説になぞらえたキャラばかりで、現代を舞台に古代の伝説を織り交ぜたなかなかに伝奇ジュブナイルしてる良作でした。
セガサターンでRPGとしてゲーム化もされています。
個人的に「ペルセウス・アンドロメダ型神話」を現代劇でやられると、それだけで好きになっちゃうので、このアニメは好きでした。
最近そういう作品ってあるかしら?
それではまた!