『ダイの大冒険』で言えば魔剣工ロン・ベルク
『ドラゴンボール』で言えばブルマ
『名探偵コナン』で言えば阿笠博士
主人公が活躍する裏にはそれを支える秘密道具の開発者がつきものです。
持ち主の強大な力に耐えうるダイの剣を作ったロン・ベルク。
後半は7つ探す手間すら省略されるほどの高性能なドラゴンレーダーを作ったブルマ。
犯人を押さえるため非力な身体を補う道具をこさえてくれた阿笠博士。
このような人物は創作上において枚挙に暇がありません。
それは神話の時代からそうなのです。
ヘパイストスという神をご存知でしょうか。
ギリシャ神話ではあの神々の伝令ヘルメスと並ぶくらいの名脇役なのですが。
ではではギリシャ神話一の職人気質、ヘパイストスについて、今回は取り上げたいと思います。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
それでは今回も皆さまの創作活動やゲームへの没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもヘパイストスとはなんぞや?
ヘパイストスとはギリシャ神話に登場する鍛冶の神であり、オリュンポス12神のひとりです。
父は最高神ゼウス、母はゼウスの正妻ヘラ。
兄に軍神アレス、妹に出産の女神エウレイテュイアと、後に英雄ヘラクレスの妻となる青春の女神へべがいます。
『神統記』によるとヘラが単身身籠ったとされますが、一般的にはゼウスとヘラの子とされます。
生まれは申し分のないエリートなのですが、実はヘパイストスは神界一の醜男として有名でして、逆に神界いち美人であると自負するヘラは、自ら生んだ我が子のその事実に堪えかね、生後間もないヘパイストスを海に投げ捨ててしまいます。
ですが運良く海の女神テティスに拾われ、ヘパイストスはニンフたちの手によりすくすくと育てられました。
その過程で類稀なクラフトワーク、ハンドメイド、DIYといった、要するに鍛冶技術の才を発露させるのです。
実はヘパイストスはもともとは小アジア(現在のトルコ周辺)の火山神として崇められていました。
しかしこの荒々しい山神もギリシャ神話に取り入れられると、鍛冶職人として新たなキャラ付けがされたのです。
なぜなら火山は炉の象徴とされ、例えばあの一つ目の巨人サイクロプスも腕のいい鍛冶職人としての面を持つほどなのです。
そのため、ヘパイストスはローマ神話に取り入れられた頃にはウォルカヌスと名を変え、この名は火山(ヴォルケーノ)の語源となりました。
ちなみに英語読みではバルカンです。
こうして立派に成長したヘパイストスは、育てのニンフたちに美しい宝石細工やアクセサリーなどを礼として贈り、そしていよいよもって天空に住まう女神ヘラへの復讐を誓うのです。
12神に選出され、そして美の女神を娶る
ヘパイストスは、自分を海に捨てた母である女神ヘラに、自らこさえた黄金の椅子を贈りました。
それはもう見事な椅子で、ヘラは喜んで座ったのです。
すると椅子から拘束具が飛び出してきて、座ったままのヘラは全身がんじがらめに拘束されてしまいました。
この拘束具に関しては「黄金の鎖」「不可視の鎖」など様々な表現がされます。
身動きできないヘラの拘束を解けるのはヘパイストスだけです。
すぐにオリュンポスへ出頭を命じますが、彼は一向に現れません。
当然です。
これは彼による復讐なのですから。
ヘラが全身拘束されたまま、ヘパイストスは目一杯放置してやるつもりなのです。
さすがに見かねた酒の神ディオニュソスが仲介に入ります。
酒に酔ったヘパイストスをオリュンポスまで連れてきたのです。
さて、ヘパイストスは拘束を解く代わりに自分を息子であると認知し、そして美の女神アフロディーテを嫁にする事を希望します。
渋々その条件を飲んだヘラにより、ヘパイストスは晴れてオリュンポスへと引っ越し、アフロディーテを嫁にし、さらに鍛冶の才を認められ、オリュンポス12神に名を連ねる事となったのです。
実力でこの地位を勝ち取ったのはヘパイストスとアフロディーテ、ヘルメスぐらいかもしれません。
あとのメンバーはゼウスの縁故採用に近いですし。
美女を縛るのが好きな鍛冶職人
地位と嫁を手に入れたヘパイストスですが、新婚生活はあまり楽しくはありませんでした。
もともと母親ですら顔を背けるほどの醜男です。
美の女神アフロディーテが心を許すはずもなく、しかも鍛冶仕事に真面目な職人気質のヘパイストスとは気が合うはずもありません。
結果、アフロディーテはヘパイストスの兄である軍神アレスと浮気三昧の日々を送ります。
よりによって軍神アレス、神界一の嫌われ者です。
毎日毎日ヘパイストスが仕事へ出掛ける度にアレスはやって来て、アフロディーテと二人の時間を過ごしていました。
しかしそれを黙って許すボクらのヘパイストスではありません。
母への復讐を遂げる彼です。
嫁に対してもその気性は変わりません。
こっそり二人のいたすベッドに細工を施すと、いつものように仕事へ出掛けるふりをします。
そこへのこのことやって来たアレスとアフロディーテがベッドで楽しみ出すと突然、不可視の蜘蛛の糸が飛び出し、あられもない二人をがんじがらめに拘束してしまったのです。
ここでは拘束具として「蜘蛛の糸」という表現を多く見かけます。
どちらにしてもヘパイストスは女を縛るのが好きなようです。
そして神々を呼び寄せ二人を晒し者にし、溜飲を下げたというわけです。
とはいえ、愛に奔放なアフロディーテの性格は変わりようもなく、いつしかヘパイストスも美の女神ではなく、戦の女神アテナの方が気になりだします。
しかしアテナは処女神です。
彼女はそのような感情、欲望を一切持ちません。
処女神に唯一の子をもうけさせる
その日もアテナは自身の冑の調子を見てもらおうと、ヘパイストスの鍜治場を訪れていた。
しかしついに、ほとばしるマグマを抑えきれず、ヘパイストスは美しいアテナに手を出してしまったのだ。
ああ、しかし、「戦の女神」に力で敵うはずもなく、あわれ、ヘパイストスはひとりで彼女の足にブッかけ果ててしまったのだ。
「なんてことを!」
汚らわしい、と素早く足にかかった「それ」を毛皮で拭き取るアテナだったが、なんとそこからエリクトニオスという半人半蛇の息子が生まれてしまったのだった。
「なんてこと……」
仕方なく、アテナはこのエリクトニオスを庇護し、のみならず、後にアテナイの王にまでしてしまいましたとさ。
ギリシャ神話の女神の中で三大処女神と言われるアテナ、アルテミス、ヘスティアですが、その処女神であるアテナに唯一例外的に子をもうけさせたのが、この鍛冶に全スキル振り切ったヘパイストスなのです。
恋が下手なヘパイストス。
でも彼の生み出す作品群はどれも素晴らしいものばかりですから。
ヘパイストスの一番の作品
数多くの神器を作ったヘパイストス。
ですが彼の作品の中でもっとも有名なのは「人類最初の女」こと、パンドラでありましょう。
鍛冶をするための存在であるヘパイストスの作品は無数にあります。
まずなにより神々のおわすオリュンポスの山頂、そこに佇む「黄金の宮殿」それ自体がヘパイストス作です。
日用品や装身具、乗り物、武具に至るまで、ほぼほぼ彼の手によるものです。
アポロンやアルテミスの使う弓矢も、アテナの持つ最強のアイギスの盾もです。
そんな彼のもっとも有名な作品がパンドラです。
「パンドラの箱」という決して開けてはならない箱(古代ギリシャでは実は壺でしたが)を開けてしまったことで有名な、あのパンドラのことです。
「青銅の時代」と言われる頃の人間は戦いに明け暮れ、ゼウスは罰として人間から「火」を奪いました。
しかしプロメテウスという神がゼウスを欺き、こっそり人間に火を与えました。
その事を許せないゼウスが、人間に更なる罰を与えるため、地上に遣わしたのが最初の女パンドラです。
何故最初かというと、その頃の人間には男しかなく、女は存在しなかったのです。
ヘパイストスが土と水をこねてパンドラを形作り、ゼウスが命を吹き込みました。
そして開けてはならないとされる箱(壺)を持たせて地上へ下ろしたのです。
結果は皆さんご存知のように、パンドラは好奇心に負け箱を開けてしまいます。
その結果、中から様々な災厄(疫病や貧困、悲嘆、怨念など)が世界中に撒き散らされます。
慌てて蓋を閉めたのですが、時既に遅し。
人々はあらゆる苦痛を伴いながら生きていかねばならなくなってしまったのです。そうでしょう?
ただ、箱の中にひとつだけ残されたものがあります。
それは「希望」あるいは「予兆」もしくは「絶望」です。
これが残されたおかげで、私たちは今もこうしてなんとか生きることが出来るのです。
まとめ
- ヘパイストスはギリシャ神話の鍛冶の神で、オリュンポス12神の一人
- 母親であるヘラに幼少時に海に捨てられるほどのブサイク
- ヘラに復讐を果たし、アフロディーテを嫁に貰うも浮気されまくる
- パンドラ他、多くの神器を作り出した
いかがだったでしょうか。
始まりは不遇なヘパイストスの復讐から成功へのドタバタ喜劇なようでしたが、実は人類にとってなかなかに密接な関係を持つ外せない神であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
そんなヘパイストスはどちらかというと名脇役のポジションにいます。
あらゆる創作物において主人公を手助けする存在、そういうキャラクターに近いかと思います。
という割には、実はオリュンポス12神の中でもひときわキャラが立っていると思うのですが、皆さんはどう思われましたか?
それではまた!