可憐な少女の腰から下は6匹の獣の首でした。
スキュラという怪物はご存知ですか?
腰から上はとても美しい女。
しかし腰から下は獰猛な首の長い獣で、人間をむさぼり喰う恐ろしい怪物です。
何故このような上下のアンバランスな怪物が生まれたのか?
そこには怖い魔女の嫉妬が絡んでいました。
今回もギリシャ神話からのご紹介。
是非皆さんの創作の参考に、読書やゲームを楽しむ味付けにご活用ください。
ギリシャ神話全体についてはこちらの記事からどうぞ!
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そもそもスキュラとはなんぞや?
スキュラは腰から上が美しい女性の姿をしているが、下半身は6つの長い獣の首と12本の足を持つ怪物です。
スキュラ(skylla)、またはスキュレー(skylle)
「犬の子」という意味があります。
ギリシャ神話において、英雄ヘラクレスの12の功業のひとつ、そしてトロイア戦争後の英雄オデュッセウスの帰還を描いた『オデュッセイア』に登場します。
姿形は諸説あり、前述のものから単純に6匹の野犬が生えているもの、もしくは獣ではなく大蛇や蛸の足とする目撃例まで様々です。
ですが共通するのは上半身の人間の娘としての美しさと、くんくんと仔犬のように可愛い泣き声が聞こえるということです。
また両親に関しても諸説あり。
女神クラタイイスの娘で、もともとはシチリア島に住むニンフであったとされるが、その他にも怪物テュポーンとエキドナの娘説、海神ポセイドンの娘説、ポルキュスと魔術の女神ヘカテの娘説、そして半蛇の怪物ラミアの娘説となかなかのものであります。
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なので例えばゼウスは多くの女と関わり子をもうけたとされたのでしょう。
余談ですが似て非なるものにインド神話があります。
あちらの英雄はほとんどがヴィシュヌ神の化身(アバター)という設定です。
救世はヴィシュヌ神により成されるという基本設定を外さない、これも創作上の縛りなのかもしれませんね。
スキュラに嫉妬した魔女キルケ
スキュラはどのようにして怪物と成り果てたのか。
古代ローマの戯曲、オウィディウスによる『変身物語』から読み解きます。
スキュラは女神クラタイイスの娘であり、美しい女性でした。
ある夏の暑い日、スキュラが入り江で水浴びをしていると、海神グラウコスが通りかかり、スキュラに一目惚れしてしまいます。
しかしグラウコスの見た目は海草のような髪と髭、全身緑色の鱗というまさに半魚人。
スキュラは恐ろしくなり逃げてしまいます。
グラウコスも元は人間でしたが、ある薬草を食べたことで予知能力を得る変わりに半魚人の姿へと変貌してしまったのです。
諦めきれないグラウコスは魔女キルケに相談し、彼女から惚れ薬を譲り受けます。
しかしこれは罠でした。
キルケはグラウコスに気があり、スキュラを邪魔に感じたのです。
そうとも知らずグラウコスは言われた通りにスキュラがよく水浴びをする泉に薬を流し込みました。
そしてスキュラがいつものように泉に浸かると、みるみるうちに水に浸かった下半身が化け物の姿へと変わっていったのです。
最初水面に獣の姿が写り込んだと思い慌てて岸辺へ這い出したのですが、そうではなく自分の足が獣になっていると知り絶望します。
スキュラは泣きながら誰にも見られないよう、近くの海岸にある洞窟へと閉じ籠ってしまいました。
以来、彼女は姿を見せることなく、しかし近くを通る船は襲われ、恐ろしい獣に船員は喰い殺される事件が多発するようになりました。
グラウコスはどうしたのでしょうね。
百年の恋も冷めたのでしょうか。
命の選択
『オデュッセイア』にもスキュラは登場します。
トロイア戦争終戦後、勝利したギリシャ連合もまた、祖国へ帰り着くのが困難な冒険を強いられた。
英雄オデュッセウスもそのひとり。
彼は実に10年の歳月をかけ、ギリシャへと帰還するのだが、その途中アイアイエ島に1年もの間滞在していた。
この島の住人、魔女キルケに気に入られ、彼もまたまんざらでもなかったのです。
キルケとはスキュラを怪物にしたあの魔女キルケです。
さすがに1年ものんびりしたのでオデュッセウスも帰ることにします。
残念がるキルケでしたが、この先の航路で危険なポイントをオデュッセウスに教えてくれます。
ひとつは歌声で魅了し船員を海に引きずり込むセイレーンのいる岩礁地帯。
蝋で固めた耳栓をすれば防げると言います。
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そしてもうひとつは海魔カリュブディスとスキュラのいるシチリア島メッシーナ海峡です。
スキュラはこの海峡の突端部にある洞窟に住み、その向かい側にカリュブディスがいます。
カリュブディスは大食いの女神でしたが、食べるなと言われていたゲリュオーンの牛を一頭食べてしまい、ゼウスを怒らせ怪物に変えられてしまったのです。
日に3度の食事をし、海ごとなんでも飲み込むため、常に渦がまく危険な海域となっています。
漁師たちは海峡の真ん中を通ることでカリュブディスとスキュラの間をすり抜けているのですが、オデュッセウスの乗る船は漁師の小舟とはデカさが違います。
そこでオデュッセウスの選んだルートは……
カリュブディスに近づき過ぎると船ごと飲み込まれてしまうので、気持ちスキュラ寄りを航行します。
問題のポイントに差し掛かった時でした。
予想通り、洞窟から延び出てきた6匹の長い獣の首が船員6名に食らいつき海へと引きずり下ろします。
その隙にオデュッセウスは全力で船を漕がせ、この海域を脱出しました。
船ごと全滅するよりも、船員6名の犠牲で抜けられるスキュラ寄りを選んだのです。
なんていうか、数字だけで良し悪しを判断する合理主義な上司の下では働きたくないですよね。
それにしても、トロイアからギリシャに帰るのにイタリアのシチリア島まで行ったら行きすぎじゃないですかね?
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まとめ
・魔女キルケに怪物になる薬を泉に撒かれたことによる
・メッシーナ海峡を通る船を獣の首を伸ばし襲う
・向かいにはカリュブディスという大食いの怪物がいる
ところで私の好きな『ファイナルファンタジーIII』に登場するスキュラは一風変わっています。
天野喜孝氏のデザインしたスキュラはなんと足ではなく頭。
肩から上に獣の頭が複数生えてるんですね。
もちろん体は女の子です。
たぶんですけど、水浴びする前にまず洗顔したんじゃないですかね。メイク落としとか。
さて、いかがだったでしょうか。
イタリアでは進退極まる状況を指して「カリュブディスとスキュラに挟まれて」などと言うそうです。
大渦など海難事故を表す故事として生まれた神話かもしれませんね。
それぐらいあちらではメジャーな存在なんですね。
ということで今回はここまで。
それではまた!
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