高級ブランド「エルメス」の名の由来となった神、それが今回取り上げるギリシャ神話の神ヘルメスです。
ヘルメスはご存知ですか?
実はギリシャ神話ではだいぶ活躍するのですが、それでいて一般の認知度はそれほど高くない気がします。
フランスの高級ブランドであるエルメスの名の由来であることからもわかる通り、ヘルメスは旅行の神です。
そして同時に商いや盗人の神でもあります。
ということで、ギリシャ神話いちのトリックスター、ヘルメスについて、今回は取り上げたいと思います。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
それでは今回も皆さまの創作活動やゲームなど、没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもヘルメスとはなんぞや?
唯一、ゼウスの妾腹の子でありながら、ヘラの迫害を免れた異端児、それがヘルメスです。
父はゼウス、母はティタン親族アトラスの娘マイア。
ローマ神話ではメリクリウスに相当し、英名はマーキュリー、惑星は水星にあたる。
オリュンポス12神に名を連ね、「神々の伝令」として世界中を駆け回ります。
そのため旅人を守護する「旅行」の神であります。
ツバ広のトラベラーズハット(旅人帽)を被り、羽のついたサンダルを履き、二匹の蛇が絡み合う「ケリュケイオンの杖(別名カドゥケウス)」を持って、今日も世界中を駆け回っているのです。
さて、何故ヘルメスはゼウスの妻であるヘラの嫉妬を買わず、他のゼウスの子とは違って迫害を免れたのでしょうか。
生まれた時から知恵が回り狡猾だったヘルメスは、ヘラの子である軍神アレスとちゃっかり入れ替わり、ヘラの母乳で育ったのです。
後からヘルメスの正体を知ったヘラですが、自ら授乳させた事で情が移り、他のゼウスが浮気して生まれた子のように責められなかったのです。
狡猾な面を見せたのはこの時ばかりではありません。
まだ幼かったヘルメスは、太陽神アポロンの牝牛をなんと50頭も盗み出すことに成功したのです。
「泥棒」の神としての才覚をいきなり発揮します。
泥棒の神として
生まれながらに奸計と狡猾に秀でたヘルメスは、幼くしてアポロンを出し抜きます。
彼の所有する牡牛をいっぺんに50頭も盗んだのです。
牛舎から連れ出す際、全ての牛を後ろ向きに後退させ、自身も大きめのサイズのサンダルを履き後ろ向きで歩く。
こうして足跡を偽装したのです。
このことからヘルメスは「泥棒」の神として知られるようになります。
怪しんだアポロンがヘルメスを詰問しても、
「生まれたばかりの私にそのような大胆な犯行、できようはずがありません」
嘘をつくなと問い詰めても、
「いやいや、嘘のつき方すらまだ知りませんよ」
とうそぶきます。
その肝と才覚を気に入ったゼウスが仲介し、アポロンに牛を返してやれと、ヘルメスをなだめました。
代わりにヘルメスはゼウスの肝いりでオリュンポス12神のひとりに任ぜられたのです。
そうなるとヘルメスはアポロンの機嫌を直そうと、亀の甲羅と羊の腸を用い見事な竪琴を作ります。
音楽の神でもあるアポロンはその見事な音色に感嘆し、ヘルメスと和解。
ヘルメスから竪琴を譲り受けるのと代わりに、ケリュケイオンの杖を贈りました。
ヘルメスはその杖を常に持ち歩くことになります。
この物々交換から転じて「商売」の神としても知られるようになります。
そしてヘルメスの才能をもッとも高く評価し、もッとも重用したのはゼウスでした。
百の目を持つ巨人アルゴス退治
ヘルメスを使えると見込んだゼウスは、事あるごとに浮気の後始末をヘルメスに頼みます。
その最たるものが牝牛に変えられたアルゴスの王女イオの救出です。
イオはヘラの侍女として仕えていましたが、その美貌にゼウスは惹かれてしまいます。
金色の雲で包み愛を交わしているとそこへヘラが現れます。
「あなた、そこに誰かいるの?」
「い、いや、誰でもない! ただの牛だよ」
咄嗟にゼウスはイオを牝牛に変え誤魔化そうとしたのです。
しかし全て見抜いていたヘラは意地悪く、
「あら、立派な牝牛だこと。わたくしにくださいな」
その要望を断りきれず、牛のままのイオはヘラに連れてかれ、監禁されてしまいます。
そして百の目を全身に持つ巨人アルゴスに見張らせたのです。
アルゴスの目は常にどれかが開いているため、24時間眠らずにいられる。
困ったゼウスはヘルメスに全部丸投げします。
ヘルメスは牧神パンの葦笛を使い、アルゴスの目を全て眠らせると、泥棒の神よろしく、静かに忍び寄り背後から首を跳ねます。
そしてイオを連れ出すことに成功しました。
ちなみにその後のイオですが、逃走に気付いたヘラがイオの耳に虻を放ち、たまらずイオは海に飛び込みます。
そうして海を泳ぎきりエジプトに到着。
その海は「イオニア海」と呼ばれ、牛から戻ったイオはゼウスの子エパポスを生み、女神イシスとなり崇められるようになりました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ヘルメスはこの他にも多くの活躍をしています。
例えばギリシャ神話のラスボスである怪物テュポーンと戦い敗れたゼウスを救出したのもヘルメスです。
この時も泥棒の神としての才覚を発揮して、ゼウスの奪われた手足の腱を取り戻したりしています。
また、ヘルメスも美の女神アフロディーテに恋していました。
しかし全く関心を示してくれないので、アフロディーテの黄金のサンダルを盗み、返却希望を聞く代わりに子をもうけます。
それも二人も。
豊穣の神プリアモスと両性具有のヘルマフロディトスです。
ヘルメスは生涯独身でしたが、アフロディーテ以外にも人間の娘ペネロペとの間に牧神パンをもうけています。
アルゴス退治に使った葦笛の持ち主ですね。
一説にはヘルメスに北欧神話の最高神であるオーディンと同一視する向きもあるとか。
ここまで行くと行き過ぎ感がありますけどね。
そんな感じでエピソードに事欠かないヘルメスでした。
それではまた!