みなさんは何故、この世に「冬」があるのかご存知ですか?
それはある女神が悲しみに暮れる期間が冬になるからです。
その女神の名はデメテル。
豊穣を司る大地の女神です。
データイースト代表作『ヘラクレスの栄光3 神々の沈黙』が大好きな人ならご存知でしょう。
『ドラゴンクエスト』でいうところの回復呪文ホイミ並に馴染みがあるかもしれません。
ヘラクレスの栄光3では各地の神殿へ行くことで新たな魔法を習得できるのですが、その最初がデメテルの神殿であり、覚える魔法がHP回復のパウなのです。
これはデメテルをご存知であればなるほどと思えます。
なんせ彼女が司るのは「豊穣」。
回復魔法にうってつけですね。
というわけで、今回はゼウス、ハデス、ポセイドンに振り回されたのに、いまいち存在が地味な大地の女神デメテルを追ってみたいと思います。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
それでは今回も皆さまの創作活動やゲームなど没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもデメテルとはなんぞや?
デメテルとは、ギリシャ神話における「大地と豊穣」の女神であり、ゼウスの姉です。
父はクロノス、母はレア
姉に「炉」の女神ヘスティア、妹に「結婚」の女神ヘラ
弟に「冥界」の神ハデス、「海神」ポセイドン、「主神」ゼウスがいます。
当然オリュンポス12神のひとりであります。
実際のところデメテルはかなり神格の高い女神です。
東西の文化が交差する、いわゆる「ヘレニズム文化」以前はあのゼウスの正妻ヘラよりも高い地位にいました。
大地の豊穣を司り、彼女の機嫌が良ければ作物は豊かに実り、逆に不機嫌だと凶作になります。
豊かな自然を表すように、緑色の衣を好んで身に纏う、とても穏やかな女神様です。
デメテルにはゼウスとの間に娘がいます。
娘の名はペルセポネ。
花を慈しむたいそう可愛らしい女神です。
デメテルも溺愛しています。
しかしこのペルセポネのために、この世が「冬」に包まれることになってしまったのです。
冥界の女王ペルセポネ
ペルセポネの父はゼウスです。
好色なゼウスは姉であるデメテルと無理矢理交わってしまいます。
デメテルはショックを受けますが、生まれてきたペルセポネのためにオリュンポスに残り続けました。
そして美しく成長したペルセポネがニンフたちと花を摘みに出掛けたときです。
離れた場所に咲いていた水仙の元へ近寄った途端、大地が裂け、冥界の王ハデスが現れたのです。
そしてなんと、嫌がるペルセポネを自分の宮殿へ誘拐してしまいます。
ハデスはペルセポネを自分の嫁にしようとしていたのです。
すぐにデメテルはゼウスに訴えましたが、どうにも歯切れがよくありません。
「別に良いじゃん。冥界の女王になるんならむしろハッピーじゃね?」
そんなことを言うゼウスに対し、デメテルは不信感を募らせます。
実はペルセポネに恋したハデスに「さらっちゃえよ」とアドバイスしたのが他でもないゼウスだったのです。
元々くじ引きとは言え冥界の管理を押し付けたハデスに対し後ろめたさでもあったのでしょうかね。
しかし失意のデメテルは塞ぎ混んで自室に引きこもってしまいました。
すると、大地の女神が悲しみに暮れたため、地上で作物が実らず、大飢饉が押し寄せたのです。
さすがにこれはヤバいと、ゼウスは一転、ハデスにペルセポネを返すよう命じました。
ゼウスの命令には逆らえません。
ハデスは最後にお願いだと言ってペルセポネに食事を付き合ってもらいます。
ペルセポネはデザートに出されたザクロの実を4粒口にしました。
ペルセポネがデメテルの元へ戻ると草木が繁り、作物は実り、飢饉は終わりました。
「よかった、無事に帰ってきてくれて。酷いことされなかったかい?」
「ええ、平気よ。デザートにザクロまで頂いてしまったわ」
「ザ、ザクロですって!」
デメテルの顔から血の気が引いていきます。
ザクロは冥界の食物です。
冥界の物を口にした者は、冥界の住人とならなければいけません。
「ああ、なんてこと。謀ったのね、ハデス!」
デメテルは怒りましたがこればかりはどうにもなりません。
しかし食べたのはたった4粒です。
そこでゼウスが仲介に入り、ペルセポネは1年のうち4ヶ月だけハデスの元へ、残りは地上でデメテルと過ごすことに決まりました。
こうして、ペルセポネが冥界にいる4ヶ月の間は、デメテルが嘆き悲しむために作物の実らない、「冬」の季節になるのです。
競馬の守護神ポセイドン
ゼウスとハデスの仕打ちに男性不信となったデメテルは、オリュンポス山を降りることにしました。
そこに近寄ってきたのが、ポセイドンです。
ゼウス、ハデスの兄弟で、彼もまたゼウスに劣らず好色でした。
もちろんデメテルにも下心ありで近寄ってきたのです。
執拗なポセイドンのセクハラから逃れるため、デメテルは牝馬に化けて逃げるのですが、ポセイドンは牡馬に化けてデメテルを捕まえると、無理矢理交わります。
う、馬のままで?
こうして後に英雄ヘラクレスも乗った名馬アリオン(アレイオン)が生まれました。
やっぱり馬のままだったようです。
しかしこの結果、ゼウス、ハデス、ポセイドンの偉大な三人により傷ついたデメテルは、以後、老婆の姿となり地上の人間たちの中で暮らしたそうです。
というお話なのですが、この話の別パターンもあります。
しつこく迫るポセイドンに、デメテルはある意地悪を思いつきます。
「私は美しいものが好き。美しい動物を作れたら考えてもいいわ」
こうしてポセイドンは悩みながら様々な動物を作り出します。
キリンやカバ、シマウマ、タコ、クラゲなど。
そして馬が生まれると、これこそが美しい動物だ、となりました。
この逸話からポセイドン、ローマ神話ではネプトゥス、英名ネプチューンは、「競馬の守護神」とされています。
シマウマはダメなの?
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食べすぎた王
デメテルも人間に対し、女神らしい神罰を与えたお話もひとつ。
テッサリアの王であるエリュシクトンは、豪勢な城を建てるために、尋常じゃないほど森の木々を伐採していました。
森のニンフたちの訴えを聞いたデメテルは、エリュシクトンに止めるよう言います。
しかし全く聞く耳持ちません。
大地の女神として許せないと考えたデメテルは、エリュシクトンに呪いをかけました。
過食症です。
食べても食べても満足できず、エリュシクトンはせっかく蓄えた私財をどんどん食費に使っていきます。
想像もつかないほどの高いエンゲル係数を叩きだします。
そしてついに財産が尽き、食料が買えなくなると、彼は自分の肉体を食べ始めたのです。
それでも満腹にはならず、結局自分自身まで食べ尽くしてしまいましたとさ。
ちなみにエリュシクトンには娘がいましたが、彼女は食費の足しにと奴隷商人に売られていたところをデメテルに救われ保護されました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
男たちに振り回されて、時に嘆き、時に怒り、しかし彼女が笑顔でいることが大地に多くの実りをもたらす。
女性が笑顔で過ごせる社会は、やっぱりどこか明るく温かな気配がすると思うのですが、どうでしょう。
それではまた!