「雷鳴」「電光」「閃光」
ひとつ目の巨人サイクロプス、神話の3兄弟を現す名です。カッコイイ!
皆さんはサイクロプスをご存じでしょうか?
ひとつ目の巨人で、毛皮着て、棍棒もって、頭の悪い暴れん坊。
そんなイメージをお持ちではないですか?
それはゲーム脳に侵されています。
神話の時代のサイクロプスはそんな戦闘狂ではなく、むしろ優秀なサポートメンバーなのです。
なんといってもあの主神ゼウスの雷霆(らいてい)、海神ポセイドンの三叉の矛(トライデント)、他にも冥界の神ハデスの武器や戦の女神アテナの鎧など、これらの神器を造ったのもサイクロプスなのですよ。
クラフトワークなサイクロプスなんてイメージありましたか?
ではなぜ今日のサイクロプスはこのような粗暴なイメージになってしまったのか。
その辺を探ってみようと思います。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
今回も皆さまの創作ネタとして、創作物への没入感を深める糧として、お楽しみいただければ幸いです。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもサイクロプスとは何ぞや?
サイクロプスはギリシャ神話に登場する一つ目の巨人です。
サイクロプス(Cyclops)は英語読みで、ギリシャ語ではキュクロプス(Kyklops)と言います。
意味は「丸い目をした」です。かわいい。
ひとつ注意したいのは(これは他のモンスターも同じですが)サイクロプスというのは種族名であって個体名ではありません。
あなたも私も「人間(ヒューマン)」という種族であり、個人名は別にあります。
サイクロプスだってそうです。
そこで冒頭の「雷鳴」「電光」「閃光」です。
最初のサイクロプス
天空神ウラノス、大地の女神ガイアの子として生まれた最初のサイクロプス3兄弟。
その名も、プロンテス(雷鳴)、ステロペス(電光)、アルゲス(閃光)の3兄弟は、その醜さを忌避したウラノスにより奈落の底タルタロスへ幽閉されます。
モンスターレビュー第9回で取り上げたヘカトンケイルと一緒です。
しかし後にウラノス率いるティタン神族と、ゼウス率いるオリュンポス神族が戦うティタノマキアが勃発!
プロンテス、ステロベス、アルゲスの3兄弟はゼウスによって救出され、以後ゼウスの味方に付きます。
3兄弟は持ち前の器用さを駆使し、鍛冶の神へパイストスを手伝い、前述した神々の武器を作り上げたというわけです。
サイクロプスに鍛冶の腕前があるとは意外だと思いませんか?
それを表しているのが彼らの体格であり、一番の特徴である一つ目なんです。
- 巨人というのは山岳を表す象徴的なもの
- 一つ目は火山の火口を表している
- 火山の象徴、故に火や溶岩を操るとして、鍛冶にも長けている
一つ目は鍛冶を表す暗喩でもあります。
鍜治場において、火花により目が潰れる、もしくは片眼を瞑りつつの作業というのも表しているそうです。
なぜ粗暴な暴れん坊にまで落ちぶれたのか?
ではなぜ現在ではサイクロプスは脳筋扱いされるのでしょうか?
犯人は紀元前8世紀の叙事詩人ホメロスです。
彼によるトロイア戦争の英雄オデュッセウスの10年に及ぶ帰還を描いた「オデュッセイア」にサイクロプスも出てきます。
3兄弟から代を重ねた子孫である彼の名はポリュペモス。
シチリア島で羊飼いをしていました。
その島にオデュッセウスと船員たちが漂流してきます。
獰猛な性格のポリュペモスは、彼らを岩山の洞窟に閉じ込め、毎日二人ずつ頭をつぶして食べたそうです。
食事のあとは羊の放牧をします。
これはマズイ、とオデュッセウスは船に積んでいたワインをポリュペモスにふるまいます。
その際に仲良くなろうと自己紹介をするのですが、自分の名は「ウティス」と偽名を名乗ります。
気分よく酔っぱらって眠ってしまったポリュペモス。
これはチャンスとオデュッセウスは先っちょが炭化した薪で一つ目をぶっ刺し潰してしまいます!
会心の一撃を食らい泣き叫ぶポリュペモス。
すると心配してあちこちから別のサイクロプスが訪ねてきます。
そうです。巨人はポルペモスだけではありません。
この島はサイクロプスたちの島だったのです。
仲間想いの彼らは誰がこんなひどい事をした? とポリュペモスに尋ねましたが、「ウティス」だ、と答えると仲間たちは「そうかあ」とみんな帰ってしまいました。
ウティスとは「誰でもない」という意味なんです。
さて、嘆いても仕方がないので、盲目になったポリュペモスも翌朝、いつも通り羊の放牧を始めます。
こんな時でも働かないといけないなんて、なんというブラックな世界。
何日か観察してわかったことですが、ポリュペモスはいつも羊の背を撫でてから放牧に送り出すのです。
そこで船員たちは羊の腹にしがみつき、目の見えないポリュペモスはそれに気付かず、無事に全員洞窟を抜け出ることに成功しましたとさ。
このようにサイクロプスは神話の時代からだいぶ知能が退化してしまっていますね。
ちなみにRPGの元祖『アドバンスト ダンジョンズ&ドラゴンズ(AD&D)』では、神話の知己に富む彼らを「グレーター・サイクロプス」、知能の低い彼らを「レッサー・サイクロプス」と分けています。
サイクロプスの使用例
特徴的なモンスターは武器や組織の名称に流用されるものです。
サイクロプスもそういった例があります。
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』
ジオン軍の優秀な特殊部隊がサイクロプス隊です。
ジオンのモビルスーツは一つ目(モノアイ)なのでこの名がついたと思われます。
劇中第1話冒頭でズゴックE、ハイゴッグ3機で連邦の北極基地を強襲するところが好きです。
というか、ハイゴッグが個人的に好きなんです。デザイン。
『X-MEN』
ウルバリンと並ぶ主役級ミュータントがサイクロップスです。
普段バイザーで目を隠していますが、外すと目から強烈な破壊光線を照射します。
枚挙に暇がない!
他にも多くの登場例があります。
『ドラゴンクエスト2 悪霊の神々』
国民的RPGドラクエでは2が初出。
青い肉体に一つ目と鬼のような一本角。
足の裏が見えるほどの巨体観で描かれてます。
インパクト強かったなあ。ドラクエは1と2に神話由来の印象強いモンスターが多いですよね。
『ソードワールドSFC2』
ノベル化された『自由人の欺き』に登場する「堕とされし巨人」は一つ目であることからサイクロプスかと疑われます。
しかしそれ以上に神格の高い存在で……
ソードワールドTRPG(旧版)ではサイクロプスのモンスターレベルは15です。
プレイヤーキャラは6レベルもあれば一国の英雄クラスであり、人間の限界は10レベルに設定されています。
このゲームではかなりの高レベルモンスターになっていますね。
『シンドバッド7回目の航海』
1958年アメリカ映画です。監督はレイ・ハリーハウゼン。
このサイクロプスは下半身が牛のような蹄をしていて特徴的です。
魔法のランプを含む財宝を守っていて、食事のシーンなどではちゃんと人間をこんがり焼いて食べようとするなど愛くるしいです。
火のついた松明で目を攻撃されるなど、正しいサイクロプスの対処法が学べます。
まとめ
- 最初のサイクロプス3兄弟は鍛冶師としてゼウス達の武器を作った
- 一つ目は火山の象徴として、火に強いとされ鍛冶師とされた
- 時代が下ると知能は退化し蛮人に落ちぶれた
いかがだったでしょうか。
ギリシャ神話全体についてはこちらの記事からどうぞ!
一口にサイクロプスと言ってもどうやら知能レベルが段違いのようですね。
グレーター(上位)とレッサー(下位)というわかりやすい分け方も興味深く、火に強い、目が弱いなどは創作に活かせそうですよね。
こんなサイクロプスがあったか、というものを是非、あなたの手でも創造してみてはいかがでしょうか?
そのときは是非教えてくださいね。
それではまた!
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