【ダンテ『神曲』地獄篇】人々の地獄イメージ決定版【サーガレビュー第6回】

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14世紀、中世ヨーロッパに始まり、現在に至るまで、キリスト教カトリックにおける地獄イメージはこのダンテの『神曲』に拠ります。

『神曲』とはイタリアの詩人ダンテ・アリギエーリの著した、地獄、煉獄、天国を描いた壮大な詩編です。

ということで今回は、一般的に現代でも地獄世界を描写する際に下敷きとされる事が多い、このダンテの『神曲』三部作の第一部「地獄篇」をご紹介したいと思います。

是非最後までお付き合いくださいませ。

目次

まずは軽くダンテについて

『神曲』の作者であるダンテは1265年、イタリアはフィレンツェの下級貴族の家に生まれました。

30歳で政治家となり、当時フィレンツェで揉めていた、キリスト教カトリックにおける「教皇派」と「皇帝派」の政治闘争に、教皇派として参加していました。

その闘争は一旦は教皇派が実権を握るも、数年後、皇帝派に巻き返され、ダンテはフィレンツェを追放されます。

その後各地を転々としながら幾冊かの本を出し、そして40代で『神曲』を書き上げています。

ダンテは結局故郷フィレンツェに戻ることはなく、56歳で生涯を終えました。

ところでダンテにはちゃんと奥さんがいましたが、20代の若かりし頃、子供時代に教会で見かけたベアトリーチェという幼馴染みと偶然街で再会します。
というか、挨拶を交わした程度らしいのですが、しかしダンテはそのベアトリーチェを激しく想うようになります。奥さんいるのに。

なのですが、そのベアトリーチェは他の男性と結婚し、さらになんと24歳で他界してしまいます。
永遠に手に入らない事を嘆いたダンテは半狂乱になったそうです。
その後に政治家になるのですが、もしかしたらこの時の想いが後に『神曲』を生み出すパワーとなったのかもしれませんね。
いや、絶対そうです。
なぜならベアトリーチェは『神曲』第三部天国篇に登場しますから。(今回は出ません)



では『神曲』とはなんぞや?

『神曲』とは35歳のダンテが崇拝するローマ時代の詩人ウェルギリウスと共に地獄、煉獄、天国を旅する長編叙事詩です。

詩です。

1300年当時、キリスト教カトリック権勢の時代、人々には天国や地獄の認識はあるものの、それがどのような世界なのかは漠然としていました。

というのも、当時は重要な書物などはラテン語で書かれたものばかりで、階級の高い、高等教育を受けた知識人でもない限り、一般大衆には読むことすら困難なものばかりだったからです。

そこでダンテは『神曲』を標準語で著しました。

おかげで人々は、特に地獄について、具体的なイメージが共有され、それは後に絵画や彫刻など美術作品のテーマにも取り上げられるようになっていきました。

二次創作OKを出したことで爆発的に認知されていったのに近いですね。

イタリアでは『神曲』は国語教材にもなっているらしく、日本で言うなら『徒然草』とか『枕草子』みたいな感じでしょうかね。

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「煉獄 」てなに?

ところで『神曲』は三部構成に分かれます。

第一部「地獄篇」から「煉獄篇」「天国篇」と続きます。
地獄と天国はわかりますよね。
では「煉獄」ってわかりますか?

悪人や、大罪を犯した人は地獄へ落ちます。
地獄であらゆる責め苦を死後、永遠に受け続けます。

天国へ行けるのは罪を犯さず、偉大な功績を成し遂げた、偉人、あるいは聖人に限られます。

あなたはどちらですか?

おそらくどちらでもないでしょう。
世の中の大半の人は大悪人でもなければ聖人でもありません。
誰だって小さな罪を犯しながら生きているんです。
罪とは法律の話ではありませんよ。
「憤怒」や「怠惰」、メシやエロも含まれます。

そうした大半の普通の人たちが行く場所が「煉獄」。

煉獄はそれぞれが犯した罪ごとに魂を炎で浄化してもらい、それが全て済んだら晴れて天国へと行くことができる。
ただそれは罪の程度によるけれど、ひとつ浄化するのにだいたい数百年かかるとか。

煉獄の存在については13世紀、ローマカトリック教会の公会議で正式に定義されています。
ただし認めているのはカトリックです。
より厳格なプロテスタントなどは煉獄を認めていません。

『神曲』で描かれた地獄

ではここからは若かりしダンテが旅したという地獄について。

ちなみに「地獄」はイタリア語で「inferno(インフェルノ)」といいます。

地獄はエルサレムの真下にあります。
具体的ですね。
地下へ向かう巨大な漏斗状、大きな大きな穴だと思ってください。
入り口のある上部ほど広く、下へ行くほど狭くなっていく。
その穴の最下層は地球の中心で、重力が集まる場所です。

そこに「悪魔王」が幽閉されています。

悪魔王とはサタンのことで、ルシファー、あるいはベルゼブブなどを指します。

この漏斗状の斜面にはいくつもの圏谷(たに)があり、それは大きく9つのエリアに分かれます
そのエリアごとに罪があり、責め苦があり、罪人がいます。

地獄の入り口……アケロン川(渡し守カロンの舟に乗って地獄へ入る)

    第一圏……辺獄(キリストが生まれる前で洗礼を受けてない過去の偉人たちがいる)
    第二圏……邪淫地獄(愛欲による罪。クレオパトラやトロイア戦争のパリスとヘレネなどがいる)
    第三圏……大食漢地獄(大雨の中、ケルベロスに引き裂かれ続ける)
    第四圏……強欲地獄(巨大な岩を転がしながら殴り合いを続ける)
    第五圏……憤怒地獄(煮えたぎるステュクス川でケンカし続ける)

上層地獄と下層地獄の境界……ハデスの町(エリニュスやメデューサが通過する者を見張っている)

    第六圏……異端地獄(キリスト教から見て異端の者が焼かれている)
    第七圏……暴虐地獄(暴力的な者がいる断崖絶壁。崖の降り口にはミノタウロスがいる)
    1. 第一層……プレゲトン川(他人の血を多く流した者がいる。アレキサンダー大王など)
      第二層……自殺者の森(自虐的な者がいる。木々に閉じ込められハーピィがついばむと痛い)
      第三層……熱砂の荒野(神と自然をいたぶった者が炎の雨から逃げ惑う。同性愛者もここに居る)
    第八圏……欺瞞地獄・悪の濠
    1. 第一層……女衒、女たらしの濠(女を欺いた者が鬼に鞭で打たれ続ける)
      第二層……阿諛追従の濠(おべっか使いが汚水、糞尿にまみれている)
      第三層……聖職売買の濠(汚い金儲けをした聖職者が穴の中で焼かれている)
      第四層……魔法使いの濠(予言者が頭を後ろ向きに付け替えられ後進している)
      第五層……汚職収賄の濠(煮えたタールに沈められ、マレブランケに見張られている)
      第六層……偽善の濠(表は黄金、裏地は鉛の重たいマントを着て歩き続ける)
      第七層……窃盗の濠(裸で無数の蛇から逃げ惑う。見張りはケンタウロス
      第八層……権謀術策の濠(ひとりひとり火の玉に焼かれ続ける)
      第九層……不和分裂の濠(中傷した者が鬼に体を斬られ続ける)
      第十層……虚偽、偽造の濠(恐ろしい病気にかかり苦しみ続ける)
    第九圏……反逆地獄コキュートス(裏切りによる罪でこの先は氷漬け地獄)
    1. 第一層……カイーナ(身内を裏切った罪。旧約聖書、弟アベルを殺したカインにまつわる)
      第二層……アンテノラ(ギリシャと通じトロイア滅亡に導いたアンテノラにまつわる)
      第三層……トロメア(客人を裏切った罪。『マカベア前書』に登場するエリコの首長にまつわる)
      第四層……ジュデッカ(キリストを裏切ったイスカリオテのユダにまつわる)

最深部……悪魔王(サタン)

どうでしょう?
特に第八圏、悪の濠は厳しいですね。
窃盗や汚職はともかく、女たらしや嘘つきもダメ。
魔法使いなんて存在だけで地獄行きですよ。
さすがはキリスト教圏。
そのわりに聖職売買がもう少し罪重くても、などと思ったりしてしまいます。

さて、最深部に幽閉されている悪魔王。
実は天から「堕ちた」堕天使ルシファー説が最も有力なのですが、天から「落ちた」ため、地面に突き刺さってます。
そしてここは重力の集まる場所です。

この悪魔王のいる場所をまっすぐ抜けた先は南半球です。
エルサレムから丁度地球の反対側で、そこには「煉獄山」がそびえています。
さらにその上空に「天国」があります。

煉獄も地獄も似たような責め苦があるのですが、煉獄は魂の浄化が済めば許され天国へ迎え入れられるのに対して、地獄にそれはない。

地獄に落ちた罪人は、死ぬこともなく、永遠の責め苦を受け続ける事になるのです。

まとめ

・『神曲』は地獄篇、煉獄篇、天国篇の三部構成。
・人々の地獄のイメージを一般化してみせた。
・地獄は9つのエリアに分かれた漏斗状の大穴。
・地獄に落ちた罪人は天国に行けず、永遠の責め苦を受け続ける。

いかがだったでしょうか。

ダンテが旅する『神曲』の世界には、実は様々な過去の偉人が登場します。

例えばギリシャ神話の英雄イアソンは、王女メディアを裏切った罪で第八圏第一層、女たらしの濠にいます。
また同じくギリシャ神話の英雄オデュッセウスは、第八層の権謀術策の濠にいます。
「トロイの木馬」は地獄行きレベルの事案だったのですね。

他にもダンテが生きた14世紀当時のローマ法王が聖職売買の濠にいたり、キリストを磔刑に追いやった祭司カヤバは偽善の濠にいるなど。
宗教観から社会風刺までありますね。

そして冥界の町としてハデスの名が登場してます。
アケロン川やステュクス川など、ギリシャ神話の世界観が下敷きとしてあるようです。
他にもケルベロスケンタウロス、ハーピー(ハルピュイア)やミノタウロスメデューサエリニュスなど、怪物や女神も多く登場しますね。
ギリシャ神話のラスボス、テュポーンが最下層で氷漬けにもなってますし、さらにその下にサタンもいる。
前作のラスボスが中ボスになって再登場している雰囲気じゃないですか。

芸術においてもキリスト教全盛のこの時代、やがてルネサンスを向かえることで、ダンテの世界も美術品のテーマとして波及していくことになります。
そのためのイメージの共有を人類史レベルで与えたのですから、創作の力はやはり凄まじい。

これから先の時代にも、もしかしたら『神曲』レベルの創作物が誕生するかもしれないし、それはあなたの手で行われるかもしれない。

それではまた!

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この記事を書いた人

漫画家になりたくて毎週のように出版社へ持ち込みをしてた人。
ケータイ用ミニゲームイラスト、アンソロジーコミック経験有。
執筆したファンタジー小説を投稿サイトにて公開中。

三匹のカエルと七人の闇堕ち姫
小説家になろう/ノベルアッププラス

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