美味しいお肉は好きですか?
暖かい部屋でくつろぎたいですか?
それには欠かせない物があります。
「火」ですよね。
プロメテウスは私たち人類を護ろうとしたギリシャ神話の神です。
彼のおかげで私たちは肉を焼けるし、暖をとることが出来ます。
しかしその代償はあまりにも大きかった。
勘違いしないでください。
代償を支払ったのはプロメテウスだけではありません。
私たちひとりひとりも、今現在に至るまで、その代償を払い続けているのです。
というわけで今回もギリシャ神話から取り上げたいと思います。
ギリシャ神話全体についてはこちらの記事からどうぞ!
□【ザ・神話オブ神話】5分でわかるギリシャ神話の世界【サーガレビュー第1回】
今回も皆様の創作の参考になるかと思いますので、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもプロメテウスとはなんぞや?
プロメテウスはゼウスに寝返ったティタン神族で、人類に火を与えてくれた神です。
父はティタン12神のひとり、イアペトス。
兄に天空を支える怪力のアトラス。
弟に愚昧なるエピメテウス他、メノイテイオス等がいる。
クロノス率いるティタン神族と、ゼウス率いるオリュンポス神族の戦い、いわゆるティタノマキアにおいて、いち早くゼウス側に寝返ったのがプロメテウスです。
彼の名には「先見の明を持つ者」「先を考える者」という意味があります。
こうしてゼウス軍の勝利に貢献したことで、戦後も母、弟たちと共に自由を死守することが出来ました。
ただしゼウスに心から忠誠を誓ったわけではありません。
多くのティタン神族は奈落の世界タルタロスに幽閉されています。
いつしか彼らを救いだし、ティタン神族の復讐を果たすことを夢見ているのです。
そのチャンスはわりと早くやって来ました。
ゼウスが人類を造り直そうとした時です。
旨い肉と腐らない骨
青銅の種族の時代と言われる頃の人間は、まだ神々と大きな差異は見られない種族でした。
そこでゼウスは神と人間に明確な違いを作ろうと考えます。
その役にプロメテウスが名乗りを挙げました。
まず牛を一頭引き裂きます。
片方の皿には食べられない牛の皮に旨い肉や内蔵を詰めます。
もう片方の皿には骨の回りに旨そうに見えるがただの脂身を巻き付けます。
その二皿をゼウスに差し出し、どちらかを神に捧げ、残った方は人間に与えましょうと言います。
旨そうに見えるがただの骨と脂身です。
プロメテウスは人間に旨い肉を与えてやろうと策を労したのです。
「フン、決まっておろう」
ゼウスは躊躇せず骨と脂身を選びます。しかし、
「肉と違い骨は腐ることはない。これより神は不死となり、腐り無くなる肉を得た人間には身を滅ぼす死というものを与えよう」
こうして人間には死の概念が生じてしまいました。
プロメテウスの魂胆をゼウスは見抜き、あえて骨を選んだのです。
しかし、そうは見抜いてもやはりプロメテウスのこの行動には腹が立ちます。
ゼウスは罰として人間たちから「火」を奪い去りました。
人間たちはせっかく手に入れた肉を焼くことも出来ず、寒さで凍えながら生活することに。
プロメテウスはこのことに心を痛め、ヘパイストスの鍛冶場へと向かいました。
三万年の苦痛
鍛冶の神ヘパイストスの鍛冶場から火種を盗んだプロメテウスは、凍える人間たちに火を与えてやりました。
こうして人間たちは息を吹き返すことが出来ましたが、これはゼウスに対する明らかな反逆です。
どんな釈明も聞き入れられず、プロメテウスは罰を受けることに。
それは想像を絶する苛烈な拷問でした。
コーカサス山の山頂に、ヘパイストスの鍛えた特別製の鎖で縛り付けられます。
ほら、ヘパイストスは拘束具を作るのが大好きですから。
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するとプロメテウスに向かい大鷲が襲いかかります。
大鷲はプロメテウスの肝臓をついばみ始めたのです。
生きたまま鷲に肝臓をついばまれる苦痛。
しかし神であるプロメテウスは不死であるため、どんなに辛くても死ぬことは出来ません。
そして夜が明ける頃には肝臓は元通り再生。
再び大鷲が肝臓をついばみに現れるのです。
その地獄の苦しみが毎日、実に三万年もの間繰り返されました。
三万年がたった頃、ひとりの英雄がプロメテウスの前に現れます。
ヘラクレスです。
ヘラクレスは自身に課せられた12の難業を遂行しており、その時は「黄金の林檎」を求めてこの地にやって来たのです。
ヘラクレスにより解放されたプロメテウスは、礼として兄のアトラスが在処を知っていると教えます。
こうした流れでヘラクレスはまたひとつ、難業をクリアーし名声を上げます。
ゼウスも息子ヘラクレスの名声に一役買ったプロメテウスをようやく許してやることにしました。
さて、実はゼウスがプロメテウスを許せなかった理由が「火種」以外にもうひとつありました。
それはゼウスが父クロノスを倒し、またそのクロノスも父ウラノスを倒したことからもわかる通り、この一族は代々自分の子によってその地位を奪われているのです。
当然ゼウスもその予言を受けていました。
しかし誰に生ませた子が予言の子なのかまではわかりません。
それをプロメテウスは知っているのです。
だがどれほどゼウスが問いただしてもプロメテウスは答えませんでした。
プロメテウス自身、内心ではゼウスへのリベンジに燃えているのですからね。
けれどその復讐の思いも三万年もの苦痛の中で次第に弱っていきます。
そしてゼウスから許しを得たとき、ついにプロメテウスも予言の相手をゼウスに教えることにしたのです。
それは海の女神、あるいはニンフとされるテティスでした。
テティスはゼウスだけでなく、ポセイドンも狙っていたのですが、神の子を生ませるわけにはいかないと諦め、人間に嫁がせました。
こうして生まれたのがトロイア戦争で活躍する英雄アキレウスです。
彼は人間として戦いましたが、その強さはまさに超人的。
もし両親ともに神から生まれていたらゼウスすら凌ぐパワーの持ち主となっていても、決して不思議ではなかったでしょう。
護ろうとした人類はすでに
なぜプロメテウスはゼウスの怒りを買うと知りつつ人間に肩入れしたのでしょうか?
ギリシャ神話での人類の歴史とは5つに大別できます。
・黄金の種族の時代
この時代は平和でした。
人々は誠実で、争いも略奪もなく、常に暖かく食物も豊富でした。
・銀の種族の時代
次第に神を敬う気持ちが薄れてきます。
欲望に溺れ、義務を果たさず、四季が生まれ厳しい冬が訪れます。
・青銅の種族の時代
人々は武器を手に取り殺し合いを始めます。
・英雄の種族の時代
半神である英雄が活躍した時代。
・鉄の種族の時代
現在の我々を差します。
実はプロメテウスが火を与えたのは青銅の種族の時代です。
なぜならこの時代の人間はプロメテウスが土から作りだし、ゼウスが命を吹き込んだので、自然、プロメテウスは彼らを庇護する立場にあったのです。
だが鎖に繋がれた三万年もの間に、青銅の種族の時代は終わりを迎えていました。
パンドラという娘が開けてはならない箱を開けたことで、世界に「災厄」が撒き散らされ、ゼウスが行った洪水による粛清により滅亡していたのです。
生き残ったのはパンドラの娘ピュラとプロメテウスの息子デウカリオンの夫婦のみ。
彼ら夫婦を人間の始祖とした、英雄の時代、そして私たちである鉄の時代の種族に代わってしまっていたのです。
ですからプロメテウスを救出したのも英雄の種族の時代を代表するヘラクレスなのでした。
あぁ、無情。
まとめ
いかがだったでしょうか。
人間を思い、行動してくれたと見える反面、プロメテウス自身にも別に思惑があったのです。
それはそれで構いません。
無償の愛を求めるのは筋違いですし、双方にとって得があるならそれに越したことはないからです。
ただ、では無償の愛はないのかと言われれば決してそんな事はなく、例えば人は子供や弱っている人に自然と手を差し伸べる思考回路が備わっているのです。
でなければこうして長い期間人間が繁栄することは出来なかったことでしょう。
それはあと何年続くのか。
私たちひとりひとりの心の有りように懸かっているではないでしょうか。
それではまた!