今回は日本神話の中でも知名度はトップクラスと思われる女神様、イザナミノミコトについてです。
日本神話は主に『古事記』と『日本書紀』という二つの歴史書によるところが大きいのですが、この二つ、微妙に細部が違っているのですよね。
ですのでより細かな専門的なことはあえて言明せず、創作のネタとして大まかなエピソードを確認していただければと思います。
それと今回いつにも増してフリー画像が見つからないのでだいぶイメージ違うかと思いますがご容赦ください。
古代日本のフリー素材、どこかいいとこないでしょうか。
ファンタジーの知識があれば、より楽しい!
皆さまの創作活動の参考になりますよう。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもイザナミとは?
イザナミとは兄であり夫でもあるイザナギと共に、日本の国土と神々を生んだ女神です。
『古事記』によれば、はじまりに天地が分かれ、「高天原(たかまがはら)」に「造化三神」、次いでまだ国土が固まらない葦の原に二柱の神が現れすぐにお姿をお隠しになられた。
そのあとに「神世七代(かみよななよ)」の神々が生まれ、その七番目、最後に生まれたのが男神イザナギと女神イザナミのペアであった。
イザナギもイザナミも名前の由来は諸説あるものの、ともに「イザナ=誘う」に男性を表す「ギ」女性を表す「ミ」が付いたとする説が最もしっくりくる。
漢字では「伊邪那美」もしくは「伊邪那美命(イザナミノミコト)」とするが、他にも別の漢字が充てられるものもある。どちらにしろルビが振られないと一見で分かりにくいので、創作や文章で書く際にはよっぽど高尚でない限りはカタカナ表記が一般的かもしれない。
イザナギとイザナミが請け負ったのは国土を固め、神々を生むこと。
二人は「天浮橋(あまのうきはし)」からドロドロの国土に「天沼矛(あめのぬぼこ)」を突き刺しかき混ぜて、まずオノゴロ島という大地を固めると、そこに降り立ち正式に婚姻関係を結び「国生み」を始めます。
「天の御柱」を中心に二人は時計回り、反時計回りで回り、ぐるっと一周して出会ったタイミングでイザナミから誘い抱き合いました。
しかし最初は失敗しました。
生まれたのはまともではない「蛭子(ひるこ)」であったため、葦舟に乗せてそっと流してしまいます。
何度か柱を回る方向を変えたりと試行錯誤した結果、女から声を掛けたのがいけなかった、という結論に達し、ようやく国生みが捗ります。
まず最初に出来たのは淡路島だそうです。
「国生み」が一段落すると次は「神生み」に入ります。
山や川や草や水やと、自然を表す神々をたくさん生み出すのですが、火の神である「火之迦具土(ヒノカグツチ)」を生んだ際、女陰に大火傷を負い、その傷がもとでイザナミは死んでしまいました。
嘆いたイザナギは「十拳剣(とつかのつるぎ)」でヒノカグツチの首を飛ばしてしまいます。
黄泉の女王として
独りっきりになってしまったイザナギは寂しくてたまらなくて、イザナミを連れ戻そうと死者のいる「黄泉の国」へと向かいます。
いざ地下に広がる黄泉の国へやってくると早速イザナミのいる宮殿へと向かい声を張り上げます。
「妻よ! 私は寂しい! それにまだ国造りは終わっていない。一緒に帰ろうぞ」
すると中からイザナミの声が返ってきました。
「ああ、わたくしも帰りたい。ですがすでに黄泉の国の食物を口にしてしまったため、地上へは戻れませぬ」
この辺り、ギリシャ神話の冥界の王ハデスとペルセポネのお話とほとんど一緒ですね。
しかしイザナミは続けます。
「ですが黄泉の方々にお伺いを立ててみます。その間お待ちになってくださいませ」
「おうとも!」
願ってもない返事にイザナギは喜びます。
「それと、待っている間、決して中を覗いてわたくしを探したりせぬように」
「勿論だ。待とう」
と答えてからそれから一向に反応がありません。
待てど暮らせどイザナミが出てくる気配がないのです。
業を煮やしたイザナギは宮殿の中を覗き、見るなと言われたイザナミの姿を見てしまいます。
「ギャァーーーッ」
イザナギは悲鳴を上げました。
イザナミの身体は腐り、うじがわき、「八雷(やついかずち)」という雷の神をまとわりつかせた恐ろしい姿だったのです。
「みぃ~たぁ~なぁ~」
と言ったかどうか。
恐怖にかられたイザナギは地上へと走って逃げ、恥をかかされたと激怒したイザナミは八雷と黄泉の住人である「黄泉津醜女(よもつしこめ)」たち、その数およそ1500! に追跡を命じます。
イザナギは逃げながら様々なアイテムを投げて醜女たちや八雷を撃退します。
そのひとつは桃の実でした。桃には魔を払う力が宿っているとはどこかの神話にも類似があります。
人生で一番一生懸命に走ったイザナギは地上と黄泉をつなぐ「黄泉比良坂(よもつひらさか)」の入り口を大岩で塞いでしまいます。
すると岩の向こうからイザナミの声が聞こえました。
「愛しいしと、恨みますよ。わたくしは1日に1000人の人間を殺しますからね」
「愛しかった人よ、なら私は1日に1500人の人間が生まれる世にしようぞ」
こうしてイザナミは黄泉の世界を統べる「黄泉津大神(よもつおおかみ)」として君臨することになります。
イザナミの呪いによって我々人間は死ぬ定めを負ったともいわれており、また日本で最初の結婚をしたことから縁結びの神としても親しまれるこの夫婦は、これを機に、最初に離婚をした夫婦としても記録されることとなりました。
ちなみに神道ではこの黄泉の下りはばっさりカットして、きれいなお話として締めくくっているとか。
おわりに
以上が有名な日本神話における「国生み」の物語です。
だいぶ端折っておりますが、それでも既存の物語を彷彿させる見知ったエピソードだったのではないでしょうか。
黄泉の国へ赴く物語は世界中の神話で観られますが、大地母神とも言える女神が黄泉の女王になってしまう展開はなかなかにスリリングですよね。
ギリシャ神話の詩人オルフェウスの冥界行きや、メソポタミアの女神イシュタルの冥界下りなど、どれも面白いしどこか似ています。
ところで地上へ戻ったイザナギはこの後も独りで神生みを続けます。
とりあえず穢れた体を洗おうとして左目を洗うとそこから「天照大神(アマテラス)」が、右目を洗うとそこから「月詠命(ツクヨミ)」が、鼻を洗うとそこから「須佐之男命(スサノオ)」が生まれました。
いわゆる「三貴士(みはしらのうずのみこ)」です。
ここから日本神話は神々を主役とした物語群へと移行していきます。
その話はいずれまた。