蛇王ザッハーク。
厳密に言うならば、モンスターではなく「人間」です。
両肩から生きている蛇を生やした暴君。
まさに異形。
ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!
それでは今回も皆さまの創作活動やゲームなど、没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもザッハークとはなんぞや?
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ザッハークとは、両肩から生きた蛇を生やしたアラブの王様です。
11世紀に編纂された『王書(シャー・ナーメ)』に、彼についての記述があります。
なかなかに面白いお話なのです。
ザッハーク、王になる
アラビアの砂漠の王国に、豪放磊落だが無思慮な王子がいた。
名をザッハークという。
彼は悪霊イブリースの諫言に乗り、父王マルダースを弑し、自ら王位に就いた。
すると早速圧政を敷き、暴君と化す。
そんなザッハークの元に再び悪霊イブリースが現れる。
イブリースは若者の姿で現れ、自分をあなた様の給仕役に雇ってくれと言った。
そのようにしてやると、その日から食べたこともないような肉料理が毎日、毎日、出されてきた。
その美味たるや。
気をよくしたザッハークは、給仕に何でも望みを言えと言った。
すると給仕は言いました。
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「あなた様の両肩に口づけをさせてください」
そんなことでいいのか、と、好きなようにさせてやると、若者はスッ、とその姿を消してしまいました。
そして蛇が生えてくる
しばらくして異変が起きます。
消えた若者が口づけをしたザッハークの両肩から、生きた黒い蛇が生えてきたのです。
右肩と左肩に一匹ずつ。
その蛇は何度斬っても無駄でした。
その度に新しい蛇が生えてくるのです。
国中の医者に見せましたが、なんら対処法もわかりません。
みんなサジ……いや、メスを投げてしまいます。
そこへ三度、悪霊イブリースが、今度は医者の姿で現れました。
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「その蛇に毎日、若者の脳味噌を喰わせなさい。さすればやがて蛇は弱り、死に絶えるであろう」
もはやそれにすがる以外なく、ザッハークは毎日二人ずつ、若者の脳味噌を蛇に喰わせることにしたのです。
二人の姉妹姫
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その頃、近隣のイランを治めるジャムシード王は、これまた暴君で民を苦しめていました。
そこでザッハークの素性を知らないイランの民たちは、ザッハークにジャムシード打倒を嘆願したのです。
これに乗ったザッハークによりジャムシードは倒れ、イランの国もザッハークの治める所となります。
ここで初めてイランの民たちもザッハークの正体を知ります。
何という事でしょう。
それはジャムシード以上の暴君だったのです。
しかも毎日両肩の蛇に脳味噌を喰わせるため、二人ずつ若者がいなくなります。
さらにザッハークは、ジャムシードの残した二人の娘、シャフルナーズ姫とアルナワーズ姫という姉妹を両脇に侍らせ、両肩の蛇の世話をさせるのです。
二人の姫を気に入ったザッハークはとてもご満悦です。
この統治はなんと千年も続きます。
英雄の予知夢
さて、毎日毎日、脳味噌を提供するために若者が二人ずついなくなります。
その脳味噌をこさえる役目を負っていた二人のペルシア人が、家畜の脳味噌を混ぜることで量を誤魔化し、毎日毎日、二人の内ひとりずつ、犠牲者を砂漠に逃がしていました。
そしてこの頃からザッハークは予知夢を見るようになります。
現れた英雄ファリードゥーンという男に打倒される夢でした。
不安を覚えたザッハークは、国中の幼子からファリードゥーンを探し、父親を特定することが出来ました。
そしてその父親と一族郎党、果てはファリードゥーンに乳をやった牝牛まで処刑します。
ですが肝心の母親とファリードゥーンは取り逃がしてしまったのです。
反撃の狼煙
成長したファリードゥーンは、母親から父やその一族の無念、ザッハークの暴虐を聞き、自ら討伐に乗り出します。
その頃、ザッハークにより多くの息子(18人中17人)を奪われた鍛冶屋のカーヴェという男が、反旗を翻すために民衆を焚き付け、戦士たちを集めていました。
その旗頭となったファリードゥーンは、ザッハークがインドに遠征に出ている隙をついて、エルサレムの王城を占拠します。
知らせを聞いたザッハークは急ぎ我が城へ戻りますが、しかしそこにはすでに助け出した二人の姫を左右に置いたファリードゥーンが待ち受けていたのです。
二人の姫を奪われたザッハークは嫉妬に駆られ、ファリードゥーンに襲いかかります。
ファリードゥーンは鍛冶屋のカーヴェが鍛えた(ファリードゥーンに乳を飲ませ育てた牝牛を柄頭に象った)牛頭の矛を振るい、一騎討ちの末これを破りました。
ファリードゥーンの勝利です。
封印と預言
ザッハークの息の根を止めようとした時、大天使スラオシャが降臨し、「まだその時ではない」とファリードゥーンを止めます。
そこでダマーヴァント山の地下に獅子の皮を束ねて編んだ縄と鎖でザッハークを幽閉、封印することとなりました。
そして預言もされます。
終末の時、ザッハークは解き放たれる。
その時の奴は「アジ・ダハーカ」と呼ばれる。
本性を現した奴は世界中の人や動物、1/3を喰い殺す。
だが善の英雄クルサースパにより退治されることが決まっているのだ。
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ゾロアスター教のアジ・ダハーカ
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古代ペルシア地域に浸透していたゾロアスター教。
しかし時代が5世紀頃にはイスラム教の台頭により衰退しています。
イスラム教はご存知、唯一神アッラーを戴く一神教です。
そのため土着の神々もイスラム世界では人間、または悪魔として存在がすげ変わりました。
暴竜、悪竜、邪竜としてのさばっていたアジ・ダハーカも、姿と名を変えました。
それが蛇王ザッハークです。
両肩に生えた蛇は、「三頭、三口、六眼の竜」であったアジ・ダハーカの特徴を継承しています。
終末の時に暴れる預言はまんまアジ・ダハーカです。
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ザッハークのモデルとなった人物もいたようです。
魔術に傾倒し、竜のような顔付きをしていた男がいたそうな。
心配した男の父親が、魔術を止めさせようとしたが、魔術の師が邪魔をする父を殺せと促し、男はその通りにしました。
ザッハークの父王殺しそのまんまですね。
それ以来、男は「エジュダハー」と呼ばれました。
これは「アジ・ダハーカ」の由来となるアヴェスタ語です。
アヴェスタ語とは、ゾロアスター教の聖典である『アヴェスタ』に用いられた言語です。
中期ペルシア語(3世紀から7世紀ごろのペルシア語。ササン朝時代の公用語)では「アジ・ダハーグ」と呼び、アラビア語では「ザッハーク」となるそうです。
「竜」や「蛇」を表す称号として用いられるそうな。
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まとめ
いかがだったでしょうか。
蛇王ザッハークと聞いて、私などは真っ先に田中芳樹作品『アルスラーン戦記』を思い出してしまいます。
ザッハークはこの作品においてのラスボスでしたが、その名は一巻からすでに登場していました。
ザッハークだけではありません。
ジャムシード王(作中では聖賢王と呼ばれる)やザッハークの封印されたダマーヴァント山も「デマヴァント山」として使われています。
二匹の蛇に喰われる若者の内、ひとりずつ助ける逸話も使っていますし、割りとそのまんまなんですよね。
古代ペルシアは実に『アルスラーン戦記』の元ネタの宝庫なんです。
対してザッハーク。
あまり他の作品で登場する機会を見かけません。
あのメガテンシリーズですらファリードゥーンは居てもザッハークは覚えがありません。
パズドラとかならいたのかな。
異形ではあるけれど、実はあまり強くないというのが原因かもしれませんね。
いや、とはいえ目の前に現れたら敵う気がしませんけども。
それではまた!