【蛇王ザッハーク】両肩に蛇を生やしたアラブの王様【ヴィランレビュー第7回】

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蛇王ザッハーク。
厳密に言うならば、モンスターではなく「人間」です。

両肩から生きている蛇を生やした暴君。
まさに異形。

ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!

それでは今回も皆さまの創作活動やゲームなど、没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

目次

そもそもザッハークとはなんぞや?

ザッハークとは、両肩から生きた蛇を生やしたアラブの王様です。

11世紀に編纂された『王書(シャー・ナーメ)』に、彼についての記述があります。
なかなかに面白いお話なのです。

ザッハーク、王になる

アラビアの砂漠の王国に、豪放磊落だが無思慮な王子がいた。
名をザッハークという。
彼は悪霊イブリースの諫言に乗り、父王マルダースを弑し、自ら王位に就いた。
すると早速圧政を敷き、暴君と化す。

そんなザッハークの元に再び悪霊イブリースが現れる。
イブリースは若者の姿で現れ、自分をあなた様の給仕役に雇ってくれと言った。
そのようにしてやると、その日から食べたこともないような肉料理が毎日、毎日、出されてきた。
その美味たるや。
気をよくしたザッハークは、給仕に何でも望みを言えと言った。
すると給仕は言いました。

あなた様の両肩に口づけをさせてください

そんなことでいいのか、と、好きなようにさせてやると、若者はスッ、とその姿を消してしまいました。

そして蛇が生えてくる

しばらくして異変が起きます。
消えた若者が口づけをしたザッハークの両肩から、生きた黒い蛇が生えてきたのです。
右肩と左肩に一匹ずつ。
その蛇は何度斬っても無駄でした。
その度に新しい蛇が生えてくるのです。
国中の医者に見せましたが、なんら対処法もわかりません。
みんなサジ……いや、メスを投げてしまいます。

そこへ三度、悪霊イブリースが、今度は医者の姿で現れました。

その蛇に毎日、若者の脳味噌を喰わせなさい。さすればやがて蛇は弱り、死に絶えるであろう

もはやそれにすがる以外なく、ザッハークは毎日二人ずつ、若者の脳味噌を蛇に喰わせることにしたのです。

二人の姉妹姫

その頃、近隣のイランを治めるジャムシード王は、これまた暴君で民を苦しめていました。
そこでザッハークの素性を知らないイランの民たちは、ザッハークにジャムシード打倒を嘆願したのです。
これに乗ったザッハークによりジャムシードは倒れ、イランの国もザッハークの治める所となります。

ここで初めてイランの民たちもザッハークの正体を知ります。
何という事でしょう。
それはジャムシード以上の暴君だったのです。
しかも毎日両肩の蛇に脳味噌を喰わせるため、二人ずつ若者がいなくなります。

さらにザッハークは、ジャムシードの残した二人の娘、シャフルナーズ姫とアルナワーズ姫という姉妹を両脇に侍らせ、両肩の蛇の世話をさせるのです。
二人の姫を気に入ったザッハークはとてもご満悦です。

この統治はなんと千年も続きます。

英雄の予知夢

さて、毎日毎日、脳味噌を提供するために若者が二人ずついなくなります。
その脳味噌をこさえる役目を負っていた二人のペルシア人が、家畜の脳味噌を混ぜることで量を誤魔化し、毎日毎日、二人の内ひとりずつ、犠牲者を砂漠に逃がしていました。

その者たちの子孫が中東の少数民族、現在のクルド人であるとか。

そしてこの頃からザッハークは予知夢を見るようになります。

現れた英雄ファリードゥーンという男に打倒される夢でした。
不安を覚えたザッハークは、国中の幼子からファリードゥーンを探し、父親を特定することが出来ました。
そしてその父親と一族郎党、果てはファリードゥーンに乳をやった牝牛まで処刑します。
ですが肝心の母親とファリードゥーンは取り逃がしてしまったのです。

反撃の狼煙

成長したファリードゥーンは、母親から父やその一族の無念、ザッハークの暴虐を聞き、自ら討伐に乗り出します。

その頃、ザッハークにより多くの息子(18人中17人)を奪われた鍛冶屋のカーヴェという男が、反旗を翻すために民衆を焚き付け、戦士たちを集めていました。
その旗頭となったファリードゥーンは、ザッハークがインドに遠征に出ている隙をついて、エルサレムの王城を占拠します。
知らせを聞いたザッハークは急ぎ我が城へ戻りますが、しかしそこにはすでに助け出した二人の姫を左右に置いたファリードゥーンが待ち受けていたのです。

二人の姫を奪われたザッハークは嫉妬に駆られ、ファリードゥーンに襲いかかります。
ファリードゥーンは鍛冶屋のカーヴェが鍛えた(ファリードゥーンに乳を飲ませ育てた牝牛を柄頭に象った)牛頭の矛を振るい、一騎討ちの末これを破りました。
ファリードゥーンの勝利です。

封印と預言

ザッハークの息の根を止めようとした時、大天使スラオシャが降臨し、「まだその時ではない」とファリードゥーンを止めます。
そこでダマーヴァント山の地下に獅子の皮を束ねて編んだ縄と鎖でザッハークを幽閉、封印することとなりました。

そして預言もされます。
終末の時、ザッハークは解き放たれる。
その時の奴は「アジ・ダハーカ」と呼ばれる。
本性を現した奴は世界中の人や動物、1/3を喰い殺す。
だが善の英雄クルサースパにより退治されることが決まっているのだ。

ゾロアスター教のアジ・ダハーカ

古代ペルシア地域に浸透していたゾロアスター教。
しかし時代が5世紀頃にはイスラム教の台頭により衰退しています。
イスラム教はご存知、唯一神アッラーを戴く一神教です。
そのため土着の神々もイスラム世界では人間、または悪魔として存在がすげ変わりました。

暴竜、悪竜、邪竜としてのさばっていたアジ・ダハーカも、姿と名を変えました。

それが蛇王ザッハークです。

両肩に生えた蛇は、「三頭、三口、六眼の竜」であったアジ・ダハーカの特徴を継承しています。
終末の時に暴れる預言はまんまアジ・ダハーカです。

ザッハークのモデルとなった人物もいたようです。
魔術に傾倒し、竜のような顔付きをしていた男がいたそうな。
心配した男の父親が、魔術を止めさせようとしたが、魔術の師が邪魔をする父を殺せと促し、男はその通りにしました。

ザッハークの父王殺しそのまんまですね。

それ以来、男は「エジュダハー」と呼ばれました。
これは「アジ・ダハーカ」の由来となるアヴェスタ語です。
アヴェスタ語とは、ゾロアスター教の聖典である『アヴェスタ』に用いられた言語です。
中期ペルシア語(3世紀から7世紀ごろのペルシア語。ササン朝時代の公用語)では「アジ・ダハーグ」と呼び、アラビア語では「ザッハーク」となるそうです。
」や「」を表す称号として用いられるそうな。

まとめ

いかがだったでしょうか。

蛇王ザッハークと聞いて、私などは真っ先に田中芳樹作品『アルスラーン戦記』を思い出してしまいます。
ザッハークはこの作品においてのラスボスでしたが、その名は一巻からすでに登場していました。

ザッハークだけではありません。
ジャムシード王(作中では聖賢王と呼ばれる)やザッハークの封印されたダマーヴァント山も「デマヴァント山」として使われています。
二匹の蛇に喰われる若者の内、ひとりずつ助ける逸話も使っていますし、割りとそのまんまなんですよね。

古代ペルシアは実に『アルスラーン戦記』の元ネタの宝庫なんです。

対してザッハーク。
あまり他の作品で登場する機会を見かけません。
あのメガテンシリーズですらファリードゥーンは居てもザッハークは覚えがありません。
パズドラとかならいたのかな。

異形ではあるけれど、実はあまり強くないというのが原因かもしれませんね。
いや、とはいえ目の前に現れたら敵う気がしませんけども。

それではまた!

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この記事を書いた人

漫画家になりたくて毎週のように出版社へ持ち込みをしてた人。
ケータイ用ミニゲームイラスト、アンソロジーコミック経験有。
執筆したファンタジー小説を投稿サイトにて公開中。

三匹のカエルと七人の闇堕ち姫
小説家になろう/ノベルアッププラス

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