【九尾の狐】最大級の大妖怪は、絶世の傾国美女【モンスターレビュー第20回】

男を王にし、堕落させ、国を亡ぼす。
傾国の美女」と言えば……歴史上枚挙に暇がありません。

しかし、九本の尻尾を持つと言えば、すぐさまあの大妖怪が浮かんできます。

九尾の狐。

大変有名で、大変に協力で、雑魚扱いなど微塵もされない。
それでいて妖狐としての戦闘力よりも、美女として権力を操る謀略の方が恐ろしい。

強くって、賢くって、美しい。

ファンタジーの知識を知れば、より楽しい!

それでは今回も皆さまの創作活動やゲームなど、没入感の参考になることを願って。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

目次

そもそも九尾の狐とはなんぞや?

九尾の狐とは、中国発祥であり、九本の尾を持つ狐の大妖怪のことです。

まず中国では、

  • 狐は50年生きると女性になり
  • 100年生きると美女になり
  • 1000年生きると天狐となり、神と同等の力を有する

と言います。
その「天狐」になるには大量の精が必要なので、美女に化けて人間の国全体をたらし込むのだそうです。

中国では「狐の精」という存在が信じられており、霊力は尾にあるとされていました。
漢の時代までに書かれた地理書『山海経』によると、「九つの尾と九つの首、虎の爪を持つ狐のような妖怪が青丘国におり、人間を喰う」とあります。

青丘とは「せいきゅう」または「しょうきゅう」と読み、実在の土地というよりも東方を観念的に表したものだそうです。
ただ山東省である山東(シャントン半島であるとか、唐の時代には朝鮮の左上辺りの遼東(リャオトン)半島だとし、さらに朝鮮まで含めるようになりました。
現在では遼東半島にある大連を指すという研究もあるそうです。
わりと日本に近い位置ですよね。

一般より「多い」ということは単純に「強い」という事を意味します。
なので尾の本数が多ければ多いほど強い、という設定が生まれるわけです。

ところで「九つの首」の部分は廃れていったようですね。
この部分を強調すれば独自の創作ネタとしてアレンジ効きそうです。

どこの妖怪?

お伝えしてますとおり、九尾の狐は古代中国発祥でございます。
後述しますが、この妖怪は日本にも大変ゆかりのある為、日本の妖怪と思われる節も見受けられます。
しかしそんな程度ではありません。
この狐の大妖怪は、アジア一帯をまたにかける存在なのです。
それだけ人間界に影響を与えたこの妖怪、恐ろしさはその戦闘力ではなく、人心を惑わす奸智にあります。
しかし最初からそうだったわけではないのです。

瑞獣(たんじゅう)」といって、中国では吉兆を伝える神獣であったのが始まりです。

夏王朝のはじまり

夏(か)王朝とは(判明している限り)中国最古の王朝です。
『封神演義』でも有名な、あの殷(いん)よりもさらにひとつ前の王朝です。
割りと近年になってから実存が確認できたかな、てぐらいあやふやな感じらしいのですが。

その時代に(う)という男がいました。
父の跡を継いで黄河の治水工事に尽力し成果を上げた人物です。
仕事に没頭するあまり婚期を逃し、中年になっても独り身でした。
令和の日本なら普通ですけどね
この当時流行っていた歌があって、「九尾の狐を見ると王になり、塗山(山ではなくて地域の名称)の娘と結婚すると家が繫栄する」というものです。
そして禹は塗山の女嬌(じょきょう)という名の娘と結婚し、当時の帝から後を継ぐよう言われ、夏王朝を開いたという事です。

最古の王朝と思われる夏の前にも帝はいたんですね。
いまでイメージする王朝とは違うと思うし、そこはもう神話の時代なのでセーフでしょうか。
ちなみに禹の跡を継いで夏王朝を治めたのは息子の啓。
これは中国最古の世襲であるとされています。

この話の九尾の狐はまだ伝承を伝える程度の登場に留まっていますね。

殷王朝を滅ぼした妲己

ここから凄惨な歴史の幕あけです。

紀元前17世紀、先の夏王朝を滅ぼした殷(商)王朝
600年ほどが過ぎた紂王(ちゅうおう)の時代
名君として才気あふれていた紂王に、有蘇氏(ゆうそし)から降伏の証として娘が献上されました。
それが妲己(だっき)です。
ですがこの時、中国の女神女媧(じょか)に無礼な発言をした紂王を懲らしめるため、妖狐が妲己に憑りついたと言われます。
後は有名な話ですが、妲己におぼれた紂王が国政をないがしろにして放蕩三昧。
酒の池や木に肉を吊った庭での「酒池肉林」や、油を塗った銅柱に火をつけ罪もない人に抱かせる「炮烙の刑」など。
残虐な遊びが後を絶ちません。
当然の如く、やがて西方を治める武王(ぶおう)に討たれて殷は滅亡します

このお話は明の時代に『封神演義』として描かれた中国四大奇書のひとつに数えられます。
作中では仙人がファンタジーな戦いを繰り広げる物語ですが、実は九尾の狐とは書かれていないそうです。
でも狐は狐だし、その後は普通に九尾の狐として扱われていますね。

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さらにちなみにこの紂王の暴虐は史実かどうかはわかりません。
その後の周王朝が殷を討つために紂王を悪者に、都合よくでっち上げたという可能性もあるわけです。
歴史において「いい人」「悪い人」という判断は時代によって違います。

周の幽王を翻弄した褒姒

殷の次、周王朝の12代目幽王は、ひとりの女を寵愛したため、后と太子を捨てこの女に傾倒しました。
その女が褒姒(ほうじ)です。

彼女は竜を体内に宿した少女がひとりで産んだとされ、褒国の貧しい夫婦に拾われ育てられ、やがて褒国から貢物として幽王に送られました。
その美貌に目を奪われた幽王は、彼女の関心を引こうとあの手この手を尽くすのですが、彼女は決して笑わない
あるとき緊急を知らせる狼煙と太鼓を打ったところ、各地の諸将が慌ててはせ参じたことがありました。
ですが実際は何事もなかった。手違いだったのでしょう。
だがその諸侯の慌てぶりが可笑しかったのか、ついに褒姒が笑ったのです。
「これだ!」
そう思った幽王は、何度も何度も同じことをして諸将を呼び寄せました。
彼女は笑わせられましたが、諸将は怒らせてしまいました

そんなある日、本当に軍勢が攻め寄せてきたのです。
攻めてきたのは幽王が捨てた后の父親の軍勢でした。
慌てて幽王は緊急招集を掛けますが、もはや誰もやって来てくれることはなく、あわれ幽王は惨殺されてしまいましたとさ。

オオカミが来たぞ、的なね。
こちらも直接の記述はないけど九尾の狐の逸話に列挙されます。

天竺で百人の王の首をねだった華陽夫人

まだ続きます。お次はインドです。

殷の妲己から抜けた九尾の狐は遠く天竺(インド)へ落ち延びます。
その地で天羅国班足(はんぞく)に気に入られ、華陽夫人として振舞います。
僧侶を1000人柵の中に押し込めると獅子を放ち食わせたり、近隣の王100人の首をねだったりしました。
それに応えられる班足王も悪鬼のように強い男だったのですが、信心深い隣国の王が読経を始めると九尾の狐の正体がバレ、一目散に逃げ出しました。

大陸を追われた九尾の狐は最後に日本へとやって来るのです。

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この記事を書いた人

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