闇を見つめる病的なまでに美しい者。
その二本の乱杭歯が美女の首筋に突き立つとき、新たな不死の怪物がこの世に生まれいづる。
ヴァンパイアはご存知ですよね。
これほど一種族として傑出した素材はおそらく他にエルフとドラゴンぐらいではないでしょうか?
今回は改めてそんなヴァンパイアの特徴と弱点を整理してみたいと思います。
皆さまの創作の参考になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
そもそもヴァンパイアとはなんぞや?
人間の生き血を啜る吸血鬼、アンデッドモンスターのことです。
ヴァンパイア、ヴァンパイヤ、バンパイア、パンパイヤ。
あと他にもドイツ語のノスフェラトゥなどと呼んだりもします。
そもそも吸血鬼伝説とは古今東西、各地に存在します。
中でも代表的なのが東欧、スラブ圏のヴァンパイアでしょう。
・狼やコウモリといった夜行性の動物に変身する
・恐ろしい怪力と敏捷性を持つ
・霧状になって移動する
・生き血を啜り永遠の若さを保つ
・吸血や視線による魅了、暗示、催眠
・知性が高く魔力も高い
・普通の武器では傷つかない
・再生能力を有する
・腐った土に埋もれると超回復する
・仮に倒れても、霧となり自分の棺に戻ればやごて復活する
こういった特徴があります。
恐ろしい能力をたくさん持つヴァンパイアですが、中でも厄介なのが「血を吸われた者もヴァンパイアになる」ということでしょう。
適度に狩られない限り、永遠を生きる彼等は無限に増えてしまうわけです。
もっとも、そうなることを彼等自身も望んではいないようで、同じ眷属に迎え入れるべき者と餌で終わる者の選別はしているようです。
噛まれれば無条件でヴァンパイア化するばかりではなさそうですね。
ヴァンパイアのルーツ
ヴァンパイアという存在が生まれたのはいくつかの説があります。
その1「密封された棺」説
その2「埋葬早すぎ」説
運良く棺の中で息を吹き返し家に帰るとヴァンパイアと思われ悲惨な末路を辿ることもあったようです。
ちなみに、日本には葬儀の前に「お通夜」という習慣があるため、このような早すぎる埋葬はまずなかったとされていますね。
ヴァンパイアが貴族というイメージ
皆さんヴァンパイアをイメージする時、何となくでも良いのですが、
「耽美」「貴族」「ゴシック」
こういったイメージを連想しませんか?
実は19世紀までのヴァンパイアといえば「赤黒い素顔」に「血を吸うとむくんで身体が膨らむ」というイメージが一般的でした。
病的な美しさなど皆無。
どちらかといえば「赤鬼」みたいな感じで真逆なんですよね。
では19世紀にいったい何があったのか?
そうです。
イギリスの作家ブラム・ストーカーによる『吸血鬼ドラキュラ』が発表されたのです。
吸血鬼といえばドラキュラ伯爵というイメージをお持ちの方も多いと思います。
実際、現在のヴァンパイアイメージの大元はほとんどがこのドラキュラ像に倣ったものです。
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ちなみに、このドラキュラ像も完全なるブラム・ストーカーのオリジナルというわけではなさそうです。
実は『ドラキュラ』が発表される数年前にジョセフ・シェリダン・ル・ファニュの『吸血鬼カーミラ』が発表されています。
魅力たっぷりの女吸血鬼カーミラが、次々と若い娘を餌食にするという耽美なものでした。
実はこのカーミラは、今日のヴァンパイアの基本型を生み出してもいます。
それは「棺で眠るうちに心臓に白木の杭を打ち込んで倒す」というのはこのカーミラの演出なのです。
さらに噛まれた跡、首筋にできるうじゃじゃけた二本の穴というのもカーミラとドラキュラ、この2作品での演出が元になっています。
ついでにもうひとつ。
実はヴァンパイアが日光に弱いというのは近年の後付けだそうです。
実際カーミラは昼日中に散歩しますし、ドラキュラも夕日を眺めるシーンがあるそうです。
強すぎて修正入ったのかな?
ヴァンパイアの弱点
ということでヴァンパイアの対処法を見ていきましょう。
強すぎるので弱点もたくさん用意されています。
まず列挙しましょう。
・ニンニクが苦手
・十字架
・聖水
・銀の武器
・血の乾きに抗えない
・流れ水を渡れない
・招待されないと屋内に侵入できない
・鏡に映らない
・影がない
・変身しても動物には見破られる
・心臓に杭を打たれると死ぬ
多いですね。
上で書いた通り、日光というのはことさらに強調する程の弱点ではなかったようです。
ニンニクは東欧では元々魔除けとして軒先に吊るす習慣があったと言います。
ただしドラキュラには効果があるようですが、ヴァンパイア全体に効くのかは疑わしいとか。
十字架と聖水はキリスト教圏だからでしょう。
銀の武器はウェアウルフなどライカンスロープ種にも有効ですね。
鏡と影がないについては正体を見破られるという意味での弱点です。
変身が動物には見破られるというのも、番犬などと共に行動すれば騙されずに済むということ。
流れ水と招待されないと侵入できないというのは面白いですね。
そして白木の杭ですが、山査子(さんざし)、野バラ、とねりこ、白楊(はこやなぎ)などが使われたそうです。
しかし杭で消滅とまではいかないらしく、墓場に釘付けにすることが目的で、最終的には焼いて灰にすることで退治したそうです。
ヴァンパイアになる方法
とはいえ永遠の命が手に入るかもしれないヴァンパイア。
なってみたいとお考えの方もおられるでしょう。
一番わかりやすいのはヴァンパイアに噛まれることですが、下手をすると噛んだ者の下僕としてこき使われるかもしれませんね。
そこでヴァンパイアに自らなる方法もあります。
というか、なれる素養を持った者です。
例を挙げるのなら悪人、犯罪者、破門された聖職者などです。
彼等はその死を大地に受け入れてもらえず、死後に不死者として目覚めるのだそうです。
反面、聖人であった場合は「奇跡の復活」ともてはやされたりするもんです。
腐る気配の見えない死体を見つけると、時には胸に杭を打ったり、焼却したりもしたとか。
他にも死体の口にニンニクを詰めたり、貨幣を詰めたり。
死体をうつ伏せにして蓋を固く閉ざしておくのもいいそうです。
起き上がれないとでも思ったのかね。可愛いね。
ですが極め付けとして復活しても歩き回らないよう手足を切り落としておくとか、首を切り落としヴァンパイア化を防ぐという処置までもしたとか。
そもそも吸血行為は不浄なるものとされていました。
東欧では生命や精神は血に宿るとされ、他人の血を受け入れることは冒涜とされました。
同じだけ、血を吸われた被害者も嫌悪される対象となり、その思想が吸血鬼とその増殖方法へと発展したようです。
また、赤黒い肌や浮腫んだ姿は当時流行していた黒死病(ペスト)の影響もあります。
恐ろしい感染力は吸血鬼の増殖を。
死体は焼却しなければならないというのはそのまま感染対策を想起させるのに十分でしょう。
さて少し話をファンタジーに戻すと、噛みついて眷属を増やすというのは、ハイチのゾンビや中国のキョンシーにも通じます。
しかしゾンビもキョンシーも知性を失っていることから、ヴァンパイアの方が遥かに格上のモンスターと言えそうです。
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またヴァンパイアは吸血行為以外にも普通に性交することもあります。
生まれてくる子供は人間とヴァンパイアのハーフで俗に「ダンピール」と呼ばれます。
往々にしてヴァンパイアハンターとしての資質を持ち合わせ、ヴァンパイアの特性と日光への耐性、博愛の心を持ち得ます。
ただし死ぬと結局ヴァンパイアとなってしまうそうです。
ハンターの資質として面白いネタをひとつ。
「土曜日に生まれた者はヴァンパイアの眩術を見破る目を持って生まれてくる」という伝承があるらしい。
これネタとして面白いですね。
ヴァンパイアの出てくる作品
枚挙に暇がありません!
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』
ヴァンパイアになった男の200年の苦悩をインタビューするという見せ方。
個人的にはブラッド・ピットをこの作品で知りました。
90年代はヴァンパイアものの映画が多かった印象もあります。
『アンダーワールド』
全身黒いラバースーツに身を包んだ主人公セリーンが綺麗で、終始それのみを観続けるための映画。
けど続編がいっぱい出てる。
『ブレイド』
ブレイドはダンピールで片っ端から吸血鬼を退治する。
1作目は真面目に作ってるけど2,3とマンガ調が強くなる。
個人的には2が気軽に見れて好き。
『ジョジョの奇妙な冒険』
第1部はここから面白くなる。石仮面で吸血鬼になるとか、チベットで修業した波紋の呼吸法とかね。
山吹色の波紋疾走(サンセットイエロー・オーバードライブ)ですよ。
『吸血鬼ハンターD』
トラベラーズハットに長剣のダンピールである主人公Dが貴族と呼ばれる吸血鬼を退治する物語。
アニメにも何度かなっているので小説が苦手な人はそちらもおすすめです。
『魔界都市〈新宿〉シリーズ 夜叉姫伝』
ノベルスで全8巻という大長編になった今作は魔界医師メフィストや人形娘、吸血鬼の夜香と共に未曽有の惨事に見舞われた新宿を舞台に壮絶な死闘が繰り広げられます。
吸血鬼ものを扱うテーマとしても「信頼」というものを強く感じた作品でした。
『ウィザードリィ』
末弥純先生の描くバンパイアロードは超人気モンスターであります。
『ファイナルファンタジーIV』
あのスカート部分の書き込み、エグイっす。

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まとめ
いかがだったでしょうか。
エルフやドラゴンは現代社会が舞台の物語では登場させるとギャグっぽくも見えてしまいますが、ヴァンパイアだけはどのジャンルでも使える素材かと思います。
それこそアクションもホラーもコメディもラブロマンスも。
なんにでも違和感はないでしょう。
さあ新たなヴァンパイア物語をあなたの手で創造してください。
それではまた!