今回のネタはスケルトンです。
骸骨の怪物。
ゲームでも、漫画でも、映画でも、スケルトンはたくさんの作品に登場します。
ファンタジーだけでなく、SFでも、もちろんホラーでも、スケルトンはたくさん登場するメジャーなモンスターです。
しかし意外なことにこのモンスターには明確な神話も伝説も存在しないのです。
ファンタジーの知識があれば、より楽しい!
今回も気軽にファンタジーの世界を覗いていってください。
スケルトンとは
骸骨の戦士。そんなイメージではないでしょうか。
ファンタジーではいわゆるアンデッド(不死)モンスターとして、大量に湧いてくる怪物。
残念ながら戦力としてはあまり考えられておらず、駆け出しの冒険者でも1対1で負ける展開はまず描かれることもない。
ようするに雑魚モンスターというくくりに落ち着きますよね。
そもそもスケルトンとは骨のモンスターです。
全身白骨のままで徘徊し、素手とは限らず武器や防具で武装していることも多いです。
そしてそのようなスケルトンは概ね人型で、したがってスケルトンは少なくとも人体の骨格についての知識が人類に定着した以降の世界で語られているはずの怪物だと推察されます。
歴史上、最初に人体解剖学の許可を下したのは古代エジプトの時代。
紀元前305年から283年に国王(ファラオ)として統治していたプトレマイオス1世だとされます。
例えばギリシャ神話などは紀元前8世紀ごろにはまとめられていたので、スケルトンがギリシャ神話に登場しないのも当然でしょう。
ちなみにですが、スケルトン・モンスターの定義は動く骨であること。
少しの肉でも付いていればそれは厳密にはスケルトンとはみなさない。カテゴリー的にはゾンビに近いかもしれません。
もちろんスケルトンは何も人間の骨に限りませんが、たいていの創作物では動物の骨のスケルトンは別種扱いにされますね。
さて、少しの肉もついていない、完全なる骨のみであるのがスケルトンとして、それではたしてスケルトンはアンデッド・モンスターと言えるのでしょうか?
不死のモンスターという事は、まさしく「生前」があったはずです。
魂というものが本当にあったとして、4んで骨だけになった存在に生前の意識が残るのでしょうか?
意識は魂に宿るのではないでしょうか?
それならばスケルトンは「動くただの骨」に過ぎず、必ずしも「不死」とは呼べないのではないでしょうか?
アンデッド・モンスターが生まれる4パターン
少し話を大きくしますが、スケルトンに限らず、アンデッド・モンスターの生まれる仕組みについてのパターンを4つ記したいと思います。
それは「勘違い」「魔術」「憑依」「怨念」の4つです。
1つめ「勘違い」
これは昔は度々あった話らしいのですが、ようするに完全に亡くなったわけではないのに埋葬してしまった場合です。
地面に埋葬された後で棺の中で息を吹き返すことがままあったそうです。
そうした被害者が真っ暗な棺内で酸欠と恐慌に陥り、出血するほど暴れたりすると、あとで棺を開けた時に思わぬ光景が目に入ったりしちゃいます。
また仮に地面から抜け出せたとしても衣服は汚れ、恐慌状態で歩く、亡くなったと思っている人物を見かけたら、それはもうアンデッドと勘違いしても無理はないでしょう。
ちなみに日本はお通夜という一夜を挟むことで、仮に息を吹き返すことがあった場合に備えています。
ですのであまりアンデッド・モンスターがいないのでしょうね。
ヨーロッパでは遺体の胸にナイフを突き立て最後の確認をするようになったそうです。
吸血鬼の胸に杭を打ち込む逸話の元ネタでしょうかね。
2つめ「魔術」
邪悪な魔術師により操られている場合です。
この場合は死体を動かす魔術を指すので、スケルトンには限りません。
ただこれも「魔術で動いている骨」に過ぎず、姿としての判別でしかありませんね。
魔術で動かすなら剣や槍でもいいんだし、ゴーレムなんかでもいい気がします。
わざわざ骨を動かすという気味の悪い趣味を用いるということは、単に動かす魔法をかけている、というだけではないのかもしれませんね。
魔術師(ウィザード)と死霊魔術師(ネクロマンサー)の違いでしょう。
3つめ「憑依」
精霊や低級霊がとり憑いた場合です。
これは日本の怪談話でもよくあるパターンではないでしょうか。
人形などに低級霊が入り込んで動き出すとか。
ただこれも骨にこだわることもないですね。
4つめ「怨念」
これがイメージするところのアンデッド・モンスターではないでしょうか。
生前の怨念が死後も引きずるパターンですね。
こうしてみるとアンデッドとは一体何なのでしょうか?
実はアンデッドという単語は19世紀、アイルランドの作家ブラム・ストーカーによる『吸血鬼ドラキュラ』にて初めて使用された言葉だそうです。
しかしですよ、ドラキュラをはじめとした吸血鬼(ヴァンパイア)とは「不死」ではありますが、「死後」ではありません。
なので「生前」も何もないのです。
アンデッドを「不死」とするならば、別に死後になる者とは限る必要もありません。
もっと言えばアンデッドも倒す方法がいくつもあるので決して「不死」ではないんですよね。
「生命活動」をしていない。そういうことなのかなあ。
わりと大きく曖昧なくくりなのかもしれませんね。
まあ、ここでそこまで答えが出るとは思えません。
ただ現状、スケルトンはアンデッド・モンスターの代表格なのは間違いありません。
スケルトンのビジュアルイメージ
スケルトンという骸骨戦士が語られ始めるのは主に中世のヨーロッパにおいてです。
14世紀から15世紀にかけて、英仏間で行われた100年戦争がありました。
「中世」という歴史区分はこの戦争の終わりとほぼ同時に「近世」へと進みます。
このころ、戦場では倒した敵の鎧を剥ぐと中には骸骨だけしか残っていなかった、そんな逸話が散見されるようになります。
また、大航海時代が始まると同時に船員たちの間で幽霊船の噂話が増えます。
その定番は剣で武装した骸骨の船員が乗っているというものです。
骸骨というものが人間の死に対するビジュアルイメージとなったのも14世紀フランスから広がったとされます。
「死の舞踊(ダンス・マカブル)」と呼ばれる美術表現は、様々な階級の衣装を着た骸骨が躍り狂うさまを描いたものです。
死は身分に関係なく、誰にも平等に訪れるということ。
これが流行り骸骨は例えば死神のように死の擬人化として定着していきました。
その骸骨がモンスターとしてより物理的、直接的な脅威として表現されたのは20世紀の新技術による「映画」の世界でした。
特撮映画の巨匠レイ・ハリーハウゼン監督による『シンドバッド 七回目の航海』(1958)では黒魔術師の操る骸骨剣士とシンドバッドが剣戟を披露します。
少しずつ人形を動かしながら撮影するストップ・モーション技法による映像は、現在のCGほど滑らかには動きません。
ですがそれがかえって動く骸骨という不気味さと滑稽さが観ていてとても気持ちがいいのです。
さらに『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)では七体の骸骨戦士を同時に登場させ主人公イアソン含む三人の戦士と入り乱れた剣戟を披露してくれます。
今回スケルトンについて調べてみたところ、多くの書籍でこの映画について触れられていましたので、モンスターとしてのスケルトンのイメージはこちらから来ているものが現在の主流、そう考えていいかもしれません。
ただこちらも内容を考えるにアンデッドというよりも魔術操作によるものと思えます。
ゲームぽく分けるならばボーンゴーレム(骨人形)とするか、七体の骸骨についてはヒドラの牙を撒いて地面から登場させる演出がギリシャ神話の「スパルトイ」の引用であり、『ロードス島戦記』ではドラゴン・トゥース・ウォリアー(竜牙兵)、『ソード・ワールド』ではスケルトン・ウォリアーとして採用されていました。ちなみにどちらもカテゴリーは「魔法生物」です。
おわりに
今回はアンデッド・モンスターとしてのスケルトンについて取り上げてみました。
死のイメージとしては中世からありますが、モンスターとしてのイメージは20世紀に入ってからという比較的新しいものでした。
実はファンタジー界隈ではこの手のモンスターはたいへん多く、例えばスライムやリザードマンなどがぱっと思いつく例でしょうか。
近代に生まれたものでもその存在はすでにベテランの貫禄があるものですね。
それではまた!