声に出して言いたい龍神第一位「イルルヤンカシュ」
イルルヤンカシュという古い龍神をご存知でしょうか?
令和を生きる日本人に訴求するならば、「あのヤマタノオロチ退治のモデルらしいよ」ということになりますかね。
なんとも適当な神話なのですが、ちょっとだけでも覗いてもらえれば幸いです。
きっとあなたの創作に役立つことと思いますので。
そもそもイルルヤンカシュとはなんぞや?
ヒッタイト神話に登場する龍神、というよりかは蛇に近い神です。
多いですね、世界中に蛇神様。
ヒッタイト人は紀元前1600年代ごろ。
場所は現トルコの東部地域辺り。
最古の神話といわれるシュメール神話を築いたメソポタミア文明のすぐ近くです。
イルルヤンカシュは海を支配する凶暴な龍神で、荒海や水害を象徴する存在として考えられています。
同じくヒッタイト神話の天候を司る嵐神プルリヤシュと戦い、彼を打ち負かしたところから物語は始まります。
その際プルリヤシュの目玉と心臓を奪ったとされています。
イルルヤンカシュの神話とは、この嵐神プルリヤシュのリベンジ物語における敵役なのです。
敵キャラの方が有名になったケースですね。
例えばあの「ダース・ベイダー」みたいな感じ?
イルルヤンカシュは他に「イルヤンカ」「ルヤンカス」などとも表記されます。
アレンジ効かせたかったらこっちの名前で登場させるのもいいですね。
その名はハッティ語で「蛇」。
ハッティって、ヒッタイトってことかね。
イルルヤンカシュを描いた壁画がトルコ中部の古都マラティアにあるそうです。
龍というより蛇っぽいようですが、もしトルコに行く機会があったら覗いてみてはいかがでしょうか。
「この龍はイルルヤンカシュと言ってね……」
とかうんちく垂れ流すと尊敬されるかウザがられるか。
激闘イルルヤンカシュふたつの世界線
実はイルルヤンカシュの神話を伝える粘土板にはふたつのバージョンがあるらしく、二通りのエピソードが知られています。
同じ世界線では語れないので、ふたつはパラレルとみるべきでしょう。
しかしどちらの物語も嵐神プルリヤシュがイルルヤンカシュに敗れるところから始まります。
その1 メンヘラ女神イナラシュのホームパーティー編
「たすけてイナラシュ~」
プルリヤシュは風と大気の女神イナラシュに助力を求めます。
ひとはだ脱ごうと彼女はイルルヤンカシュを酒に誘い、酔わせ眠らせます。
その隙にふん縛ってやろうとしますが、女ひとりで竜を縛ることは出来ない。
そこへ怪力を誇る人間フパシヤシュという男に手伝ってほしいと頼んだ。
するとフパシヤシュは「一晩付き合ってくれるなら手助けするぜ」と言います。
なんてことを……。
イナラシュはこれを承諾し、二人は結ばれます。
承諾したのか……。
女神と寝ることでフパシヤシュは神の力を得て、そして二人で酔っぱらってるイルルヤンカシュを縛り上げてしまいます。
イルルヤンカシュはその間ずっと眠ったままか! 目を覚ませ!
こうして身動きできないイルルヤンカシュは、手も足も出ずリベンジされたのでした。
イルルヤンカシュの出番はこれでおしまいですが、しかし話は終わらない。
なんとイナラシュの方がフパシヤシュを本気で好きになってしまったのです。
彼女は帰ろうとする彼を自分の家に監禁してしまいました。
「いいこと、窓すら開けてはなりませんよ」
イナラシュはそう云いつけましたが、彼女の留守中にそっと窓を開け、地上の故郷を眺めていると、そこにはフパシヤシュの愛する妻と子の姿がありました。
郷愁にかられたフパシヤシュはここから逃げ出す決心をします。
つーか妻子いたのか! 自業自得やんか……。
で、結局、怒ったイナラシュに殺されてしまいましたとさ。
何て言うか、登場人物みんなキライ。
その2 嵐神の息子偽装結婚編
戦いに敗れ、目と心臓を奪われた嵐神プルリヤシュは、ある作戦を企てた。
まず人間の、それも貧しい女と結婚した。
なぜ貧しい女なのかはわかりません。金にものを言わせたのかもしれませんね。
そして半神である息子を作ると、その息子とイルルヤンカシュの娘を結婚させます。
娘いたのかイルルヤンカシュ。
娘はヒト型なのかイルルヤンカシュ?
そして息子にイルルヤンカシュの自宅を訪ねた際に、奪われた目と心臓の在りかを聞き出すように言いつけます。
息子がイルルヤンカシュに尋ねると、義理の息子を気に入っていたのか、目と心臓を難なく返してくれたのです。
さあ力を取り戻した嵐神プルリヤシュのリベンジ開始です。
しかしイルルヤンカシュの傍には自分の息子もいます。
これでは息子まで巻き添えを食ってしまう。
しかし息子は「我を助けるな(意訳 かまわん、撃て)」と叫びました。
プルリヤシュは心置きなく息子ごとイルルヤンカシュを殺してしまいましたとさ。
ヒデー話。
ヤマタノオロチのモデル?
冒頭でヤマタノオロチ退治のモデルとお伝えしましたが、ハッキリ言うとお酒を飲ませる以外似てませんね。
この話は日本にはインド、中国を伝って伝わったと思います。
例えばイルルヤンカシュは荒海や水害の象徴であると思われますが、ヤマタノオロチも八岐大蛇。
オロチも川や谷を表しています。水害なんですね。
実はオロチを退治したスサノオノミコトも海の支配者です。
荒れ狂う海というのはまさに人間にとって脅威だったのでしょうね。
イルルヤンカシュが出てくる作品
『真・女神転生デビルサマナー』
逆巻く水が竜の形をしたデザインの悪魔です。
他にもいくつか登場例があるようです。
この項目は追加できるよう、今後もイルルヤンカシュを追ってみたいと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか
ヒッタイト神話やシュメール神話を含む、いわゆるオリエント神話の特徴として、男神より女神の方が情熱的で活動的で殺戮も厭わない多情な存在であるという面があります。
実際に当時のこの地では女性の方が権威的であったなどとする見解もあるそうです。
しかしそれでも神々の王者としての立ち位置にあるのは男神であったりするようで、その辺は男をたてようとする姿勢もあったようです。
イナラシュが男の手を借りてイルルヤンカシュをふんじばったりするのも、力を使うなら男を使うという相互補助、役割分担、適材適所といった効率の良さが見えますね。
しかし龍神の娘が人間体? のようでもあり、なんだかご都合主義的なものも感じますが、そこはやはり神話ならでは。
そういう部分も上手くアレンジするのが創作家の腕の見せ所でしょうね。
あなたも新たなイルルヤンカシュを生み出せるようチャレンジしてみてはいかがですか。
その時は教えてくださいね。
それではまた。